メディア旭川 連載記事
世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』
第147杯「昔は良かった」
いつの時代でも、今の若者はなっていない、昔の人間はよくできていた、昔は良かったとする風潮があると思う。現代っ子という言葉がありますが、1960年代初頭にある教育評論家が造った言葉らしいので、当時の現代っ子も今や高齢者です。昭和は良かった、食べ物も昔の方が美味しかった、などと言う側になっています。
この論法でいけば、いつのころになるのかわからないが、日本が国家として確立したころの人間がもっとも人徳があったことになり、また、和食や日本酒は、食材が国産の天然もの、農薬や食品添加物などなかった時代がもっとも美味しかったことになります。聖徳太子や自分の祖先に会ったこともないし、江戸時代後期の寿司や天ぷら、うなぎ、日本酒を味わったこともないので、この論法が正しいかはわかりません。
しかし、昭和の太平洋戦争とその前後は厳しい時代であったことは間違いありません。現在の日本国民は、戦争をせず、曲がりなりにも平和憲法を維持し、農作物の品種改良、栽培技術を向上させ、調理技術も進歩しているのであるから、現在の人間も昔の人間に比べて劣っているわけではないし、昔の味の方が美味しいとは限りません。ぼくも還暦近くなり、若いころは楽しかったし、苦労したけどやりがいもあったなと懐かしむことが多くなってしまいました。若いころは、同じ食べ物でも今より美味しく感じたと思われます。「昔は良かった」とは、過去の記憶を美化している側面が強いのではないかと思います。
ただ、司法試験に関していえば「昔は良かった」ことがあります。昔は10月に合格し、翌年4月から司法修習が始まりました。昔は合格すると、その日から突然、周囲の扱いが変わりました。今までは、社会に何の貢献もしていない存在でしかありませんでしたが、合格すると、急に立場が変わって教える立場になり、合格祝賀会や司法試験受験予備校での仕事の案内には「先生」として案内が来ます。答案添削料、講師料はそれなりの金額がもらえたので受験時代より余裕ある生活ができます。また、今の司法修習生は、昔に比べて、カリキュラムが多様かつ、盛りだくさんなのに、修習期間が圧縮されていますので、修習中はもちろん、修習開始前から、とても忙しそうに見えます。合格後に社会復帰の準備のための半年間があったこと、司法修習が今ほどタイトでなかったことで「昔は良かった」と思います。

