メディア旭川 連載記事
世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』
第142杯「明治大正時代を味わう」
東京の老舗のそば屋では、そば前といって、気の効いたつまみで一杯やってから、そばをいただくのが粋だとか通だとされているようです。
所用で東京に行った際、明治時代から続く老舗のそば屋で、そば前で一杯やって、そばを味わってみようと思いつき、一人で行ってみることにしました。まず、基本的に滞在時間の制限はなく、土日等で混雑が予想される場合に時間制限がなされても90分以内とかに設定されており、ゆっくり、そば前とそばを愉しむ配慮がなされています。立ち食いそばとは対極にある、日本におけるスローフードの走りといえます。
明治大正時代を味わう目的なので、日本酒(菊正宗のみ)を選択し、常温、ぬる燗、熱燗から、ぬる燗を注文しました。冷酒はありません。つまみは、板わさと海苔を注文しました。板わさは、昔からそば前の定番であり、板かまぼこを切ったものにわさびをのせることから板わさというようです。上質のかまぼこに添えられた本わさびが非常によく効きます。本わさびが主役と言って良いくらいです。海苔は火種を置いたノリ箱にて提供され、このノリ箱が見たくて注文しました。
肝心のそばですが、「当店のそばは、北海道旭川市江丹別産の蕎麦を使用しています」と謳っていました。つなぎなしの十割とか、つなぎありの二八とかがありますが、十割だから美味しい、というわけではなく、のど越しの良さをある程度求めるかの好みの問題と思っています。また、手打ちと機械打ちがありますが、そばのたんぱく質にはグルテンが入っていない関係で、手打ちは難しく、機械打ちの方が均質に仕上がるため、手打ちだから美味しいとは限らないと思っています。
結局、そばは、使用する蕎麦粉の勝負と思っており、旭川江丹別産の蕎麦が老舗のそば屋で使用されていることは、旭川市民としてはうれしい限りではありますが、旭川から出かけて、東京で旭川江丹別産の蕎麦を食べることになり、少し釈然としませんでした。
東京の老舗のそば屋のそばつゆは、濃いので有名です。そのため、そばをつゆにどっぷりつけずに、そばの先端を少しだけつゆにつけて食べるのが流儀のようです。その方が蕎麦の香りも楽しめるのかなと思いました。明治大正時代のスタイルを再現しましたが、旭川江丹別産の蕎麦で打ったそばは、旭川でも手に入ることから、そばつゆだけをお土産に買って帰りました。

