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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第135杯「演芸と裁判」

先日、東京に行った際、時間が空いたので浅草に行って、有名店で牛煮込みを食べた後、初めて演芸ホールに入り、落語等の演芸を見物しました。最初に、落語家の格付けで最下位の者が、前座として登場し、開口一番という寄席の最初の一席を受け持ちます。前座による演目はあくまで勉強のためであるので、番組(プログラム)には前座の名前が載っていません。その後、二つ目の落語、寄席の色物(漫才・漫談・物まね・紙切りなど)が続き、仲入り後は、ベテランが登場し、落語を中心に、紙切り等も演じられ、最後に真打が登場します。

古典落語は、演じる落語家によって客の反応が全く違います。前座による開口一番や成り立ての二つ目の落語は、単調でメリハリが足りないように感じられ、落語等の演芸は年季と能力が必要だと思いました。演芸は、AIでは代替できないと思います。

では、裁判はAIで代替できるでしょうか。裁判文書の作成や証人尋問は、読ませる、聴かせる技術については演芸と通じますが、要は、必要な情報を裁判に顕出できれば良いので、AIで代替可能と思います。刑事事件では、事実関係に争いがない限りは、裁判官は、弁護人の能力によって不公平な量刑にならないよう、量刑相場に従って判断しています。

弁護人の能力には左右されないから、裁判官の判断はAIでも代替できるといえます。まれに、情状立証をしっかり行えば執行猶予が付されるなど、情状立証が効果を発揮する場合がありますが、情状の採用・評価は裁判官によって異なるので、これはAIでは代替できないと思います。刑事事件で事実関係に争いがある場合や民事事件では、主張漏れが怖いので、ぼくの場合は、どうしても網羅的な書面となってしまいます。裁判官に採用してもらうために、読みやすい文章を心がけます。

もっとも、網羅的な主張とその採否は、AIの得意とするところですから、大半の事件では裁判官も弁護人・代理人弁護士もAIで代替可能であろうと思います。ただし、前審や過去の事例と判断を変える必要がある場合、情状の採否、裁判に現れた一切の事情(弁論の全趣旨)を考慮するような場合は、AIでは代替することはできないと思います。

結局、落語などの演芸に比べ、裁判はAIで代替できる部分は大きいものの、社会情勢に応じた先例や法解釈の見直し、人情や弁論の全趣旨の考慮は、AIでは代替できないと思います。