メディア旭川 連載記事
世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』
第124杯「国選弁護と私選弁護」
当番弁護(犯罪の容疑をかけられて逮捕された者(被疑者)が無料で弁護士を呼んで1回相談できるという制度)で、被疑者との接見に赴いたとき、今後の手続きや処分の見込みについて説明する他、国選弁護と私選弁護の説明をして、どういう形態で弁護士を選任するか、被疑者の意思確認をします。被疑者の中には、国選弁護は弁護士費用が安いので、一生懸命やってくれない、私選弁護は熱意を持ってやってくれると考えて、私選弁護を希望する人がいます。ぼくは、国選弁護でも、私選弁護に比較して手を抜くようなことはしない、数日で勾留決定されたら、国選弁護人が選任されるから、費用負担があっても小さい国選にした方が良いと説明します。
私選にする実益ですが、事実関係に争いがない事件では、裁判官は量刑については不公平がないように配慮しますので、私選と国選を理由に判決結果が異なることはありません。事実関係に争いがある事件では、弁護士の能力により判決結果に差異が生じることはあり得ると思いますが、私選と国選の差ではありません。私選弁護は事実関係に争いのある事件で、能力の高い弁護士に依頼する場合に実益があるといえます。
ぼくの場合、弁護士費用は、すぐ支払うからとの言葉を信じて私選弁護の契約を結び、こき使われた挙句、判決が言い渡されて事件が終了し、結局、弁護士費用は支払われなかったとか、被害感情が強く、示談を拒否された被害者に対して、話せばわかるはずだからと、何度も示談交渉の試みを命じられ、しまいには、被害者が怒り出したとか、毎日の接見及び関係者への連絡状況の報告など、私選弁護では、ロクなことがなかったので、刑事弁護は国選弁護で受任することにしています。
逮捕者に勾留決定がなされると国選弁護人が選任されるのですが、刑事訴訟法が改正され、性犯罪等では、報復の恐れ等で犯罪被害者の保護の必要がある場合、その氏名等の情報が勾留状に記載されなくなりました。国選弁護人になろうとする者は、被害者が誰かわからないまま国選弁護人に選任されることになります。犯罪被害者側の人物と面識がある等、犯罪被害者と弁護人との間に利害関係がある場合は、被疑者の弁護を担当できません。犯罪被害者の氏名等を確認できないこの制度の場合、被疑者の国選弁護人がなかなか決まらず、また、国選弁護を取り扱う弁護士も減ると思います。