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北海道新聞 連載記事『朝の食卓』

握手

北海道新聞 連載記事『朝の食卓』


昨年10月31日、父が軽い脳梗塞で2週間の予定で旭川市内の病院に入院しました。翌日、様子を見に行ったら、「もうダメだから、東京にいる次男(ぼくの弟)を早く呼べ」と軽口をたたいていたので、まあ大丈夫だろうと思い、父から握手を求められたので、握手しました。大きさ、厚み、自分の手のひらとほぼ同じことに気づきました。親子だから当たり前なのですが。

その後、父は肺炎を併発してあっという間に衰弱しました。12月27日に面会した時、父が「今度いつ来る」と尋ねたので、ぼくは「明日来る」と答えて握手しました。体は痩せてしまいましたが、手のひらは変わっていませんでした。翌日から、インフルエンザ流行が終息するまで、入院病棟への立ち入りができなくなってしまったので、結果的にはこれが最後の会話となりました。

父は、今年の2月22日午後3時55分に臨終しました。満83歳でした。その15分後に病院に到着して対面しました。心肺停止してもしばらくは生きている、聞こえているという話を聞いたことがあるので「じいさん、まだ生きているんだろ」「聞こえているんだろ」と声をかけました。そして、握手しました。やっぱりいつもと同じ手のひらでした。父の目に、涙がにじんでいるように見えたので、聞こえていたのだと思います。

父の遺影は、ぼくとそっくりの写真を使ったので、ぼくは自分の葬式に参列している錯覚に陥ると同時に、父は、ぼくの中で生きていると思いました。