北海道新聞 連載記事『朝の食卓』
続・フランダースの犬

冬の寒い日にふと思い出す悲話があります。「フランダースの犬」です。ネロ少年は、唯一の肉親の祖父と死に別れ、ミルク運びの仕事を絶たれ、家賃を払えなくなって家から追い出されます。
ネロが娘のアロアと親しいことを気に入らない富豪のコゼツとその手下のハンスからは放火犯のぬれぎぬを着せられるなど、ひどい仕打ちを受けます。渾身の作品を応募した絵画コンクールにも入選できません。ネロはすべてを失い、最後はパトラッシュと共に教会で凍死します。かわいそう過ぎて言葉もありません。
何とかならないのか?前日、大雪の中、ネロはコゼツの財布を拾ってコゼツ宅に届けますが、今思えばこの時がラストチャンスで、この時にネロを保護するというストーリーが考えられます。でも、これは結果論です。
視点を変えて、実は生きていたというストーリーを考えました。この場合、ネロとパトラッシュは教会で凍死したと考えられていましたが、低体温症に陥った仮死状態であり、これに気づいたアントワープの町医者の手厚い処置で蘇生しました。その後、回復したネロはコゼツの謝罪を受け入れて和解し、アロアと結婚して画家となり、パトラッシュとともに末永く幸せに暮らしました、と日本の昔話のような結末となります。これで、ネロとパトラッシュも救われます。
もっとも、この結末だと「フランダースの犬」は文学作品としては日の目を見なかったと思います。