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北海道経済 連載記事

2018年5月号

第98回 民事訴訟で証拠を入手する方法

民事訴訟では裁判の当事者(原告と被告)が提出した証拠で事実を認定する。証拠は当事者が収集しなければならない。今回の法律放談では、証拠収集のための制度と問題点に注目する。(聞き手=本誌編集部)

民事訴訟に関して、多くの人は「裁判所が調査を尽くして証拠を収集し、真実を解明し、正しい判決を言い渡してくれるはずだ」と考えていると思います。現実には、日本の訴訟制度は「当事者主義」(事実の解明や証拠収集の主導権を裁判の当事者に委ねる原則)を採用しており、裁判官は原則として、当事者が収集し提出した証拠で事実を認定して判決を言い渡すだけです。積極的に職権を行使して証拠を収集することは、ほとんどありません。

民間人の証拠収集力は微々たるものです。自分で所持している証拠は提出できますが、裁判の相手方当事者や第三者が証拠を所持していることが多く(証拠の偏在)、これを入手することは難しく、入手できなければ敗訴してしまいます。

こうした証拠の偏在を是正して裁判の公正化を図る制度として「文書提出命令」があります。これは、訴訟の当事者のうち一方から「文書提出命令」の申立てを受けて、裁判所が提出義務ある文書であることを認めれば、訴訟の相手方や第三者に当該文書の提出を命じる制度です。提出を命じられた当事者が命令に従わなかった場合、提出命令を申し立てた当事者の主張を真実と認めることができます(民訴法224条)。

もっとも、公務文書等、多くの文書提出義務の例外文書があるため(民訴法220条4号)簡単に文書提出命令が発令されるわけではありません。また、文書提出命令の申立て自体が独立した裁判になるので発令までに数か月の時間を要する上、不服の申し立てがあればさらに数か月時間がかかります。そのため裁判所からも「時間が何か月もかかり、その間、本訴の手続がストップしてしまうので、他の方法での立証を検討してほしい」等と、嫌がられることもあります。

そこで、証拠収集のためよく使う制度が「文書送付嘱託」(民訴法226条)です。裁判所を通じて、任意に文書を提出するようにお願いする制度です。例えば、遺産相続や離婚後の財産分与に絡んで、金融機関に取引履歴などの情報を提供してもらうためにこの制度を使います。裁判所が情報提供の必要性を認めれば文書送付嘱託は採用されますが、近時は、個人情報保護の観点から、かなりピンポイントで提供を求める情報を絞り込まないと裁判所が必要性を認めてくれません。したがって、どこの銀行に口座があるか、どこの保険会社に加入しているか分からない場合、金融機関に網羅的に文書送付を求めることになりそうですが、そのような文書送付嘱託は裁判所が採用しません。

また、弁護士が、証拠を収集するための制度として「弁護士法23条照会」があります。これは弁護士が所属先の弁護士会に申請を行い、弁護士会が審査を行って必要と認めた場合、官公庁や企業などに照会を行う制度です。官公庁や企業は弁護士法23条照会を拒否できないことになっていますが、有効な罰則が定められていないこともあり、個人情報の保護などを理由に拒否されることが少なくありません。

このように、証拠を収集するための制度はあるのですが、様々な問題があり、弁護士は証拠の収集に苦労しているのが現実です。