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北海道経済 連載記事

2018年4月号

第97回 NHK受信料めぐる新しい動き

過去にこのコーナーで何度か取り上げてきたNHK受信料。昨年から今年にかけて注目すべき動きがいくつかあった。今回の法律放談は再び受信料に注目する。(聞き手=本誌編集部)

2月9日、NHKとの受信契約を拒否していた東京のホテルチェーン運営会社がNHKから訴えられていた裁判の上告審で、受信料支払いを命じた一審、二審の判決が維持されました。昨年10月には東京地裁で、235のホテル、3万4000部屋を持つ大規模なホテルチェーンに対して受信料19億3000万円の支払いを命じる判決が言い渡されています。

すべてのテレビ設置者にNHKとの契約義務があるとする放送法の規定についても、昨年12月に最高裁大法廷で「表現の自由を実現するという放送法の趣旨にかなうもので、合憲」との判断が初めて示されました。「契約の自由」の観点から違憲との被告側の主張は退けられました。

このようにNHK勝訴の判決が相次いでいるためか、最近、私に対しても受信料についての問い合わせが電話で寄せられるようになっています。その多くは「滞納受信料を支払ってしまった方が良いか」という内容です。私のアドバイスは「NHKは過去の滞納分をすべて請求してくるが、まず時効期間(5年)が経過している分についてはNHKの債権が消滅していることを明確に主張し、時効期間が経過していない分だけ支払えば良い。時効期間が経過した分は支払わなくて良い」というものです。ちなみに、衛星放送を含まない受信料は5年分で7万8600円となります。なお、受信料支払債務を承認してしまうと、5年経過した分については時効を主張する権利を失い、結局、滞納分すべてを支払うことになるので注意が必要です。

NHK受信料債権の時効については、NHKから訴えられた被告の代理人を私が務めた旭川地裁での裁判で、5年間を適用する判決が言い渡されました(2012年1月31日、同年12月21日の札幌高裁上告審判決で確定)。旭川簡裁が言い渡した一審判決は7年分の支払いを命じたのですが、地裁では、受信料債権は民法169条が定める「定期給付債権」(1年または1年未満の短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権)であり、5年で時効消滅するとの判断が初めて地裁レベルで明確に示され、これが先例となって全国各地で同様の判決が相次いだ経緯があります。

近年、NHKはワンセグ機能を搭載した携帯電話の所有者に対する圧力を強めており、昨年は水戸地裁や東京地裁でワンセグ所有者にも契約義務があるとの判決が相次ぎました。さらに、NHKが2019年に目指しているネットでの番組同時配信にからんで、テレビを持たず、パソコンやタブレットを持つすべての世帯からも受信料が徴収されるのではないかとの見方が生じています。

以前にも指摘したことがありますが、現在の受信料制度は、テレビの設置台数が少なく、未契約者の視聴を防ぐ技術がなかった昔ならともかく、スクランブル放送でそれが可能になった現状を考えれば明らかに時代遅れであり、法改正が必要です。現在の制度を維持するなら、スマホを買う人に店頭で「この機種にはテレビ視聴の機能がついています。受信料がかかりますがいいですか」と確認する必要があるでしょう。