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北海道経済 連載記事

2018年1月号

第94回 「恵庭OL殺人事件」の再審請求

刑事裁判で誤った判決が言い渡される可能性は、数々の再審事件で無罪判決が言い渡されたことが証明している。道内では、2000年3月に起きた「恵庭OL殺人事件」について、二度目の再審請求が行われており、今年度内に札幌地裁が裁判をやり直すか否かを判断する見通しだ。今回の法律放談はこの事件に注目する。(聞き手=本誌編集部)

日本の刑事裁判では、いったん起訴されればほとんどの裁判で有罪判決が言い渡されます。平成も31年4月30日で終わりですが、旭川地裁で平成に入って全面無罪判決が言い渡されたのは平成16年、翌17年(私が弁護人を担当した事件)、そして平成29年11月22日の3回だけです。平成17年以降12年間にわたって全面無罪の判決がなかったわけですから、「推定無罪」ではなく、「推定有罪」の運用がなされています。

さて、平成12年に起きた「恵庭OL殺人事件」事件では20代の会社員だった女性が殺害され、遺体が一部焼かれた状態で屋外で発見されました。逮捕された被害者の同僚の女性Xは、一貫して犯行を否認していましたが、札幌地裁はXが被害者を絞殺してから灯油をかけて火をつけたと認定し、懲役16年の有罪判決を言い渡しました。上級審もこれを支持したため平成18年に判決が確定し、Xは現在も服役中です。

私は司法試験に合格したあと札幌地裁で修習したのですが、この裁判の記録を読んだり、公判を傍聴する機会がありました。裁判を担当した札幌地裁の某裁判官は、しっかり証拠を吟味して事実認定し、疑わしきは罰せずの原則に則って判決を言い渡す裁判官でした。当たり前と思われるかもしれませんが、実際には検察の主張を簡単に採用して有罪判決を言い渡し、無罪判決は一度も言い渡さない裁判官の方が多く、またそういう裁判官の方が順調に出世します。

「城丸君事件」(1984年に失踪した少年の骨が発見され、容疑者が完全黙秘のまま14年後に起訴された事件)の裁判では、前記某裁判官が裁判長を務め、殺人罪で起訴された被告人に無罪判決を言い渡しています。恵庭OL殺人事件についても検察が提出したのは状況証拠だけでしたが、一審判決は有罪。あの某裁判官が審理を担当して有罪判決を言い渡したのだから、有罪で間違いないのだろうと当時も今も思っています。

しかし、Xの支援者たちが、再審を求める運動を起こしました。平成26年4月には札幌地裁が再審請求を棄却したものの、今年1月には再度の再審請求が行われました。今年度中には、札幌地裁が再審請求を認めるか否かの判断を示すことになっています。

支援者たちは、専門家の鑑定をもとに被害者は絞殺されたのではなく毒殺された、遺体はうつぶせで焼かれたあとあおむけにされて再び焼かれているが、Xを現場以外で目撃したとの証言があり、現場に戻って焼くのに必要な時間を考えればアリバイが成立する、などと主張しています。平成29年10月からは日本弁護士連合会が再審請求を支援しています。

ただ、過去に再審決定された事件では、犯人とされた人物が無罪であることを示す動かぬ証拠がありました(東電OL殺人事件のDNA鑑定など)。恵庭OL殺人事件について、弁護士らが提出した新証拠にそれだけの力があるか否かは微妙なところで、今後、札幌地裁の示す判断が注目されます。