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北海道経済 連載記事

2017年12月号

第93回 「アディーレ」懲戒処分の背景

10月11日、全国展開している「アディーレ法律事務所」が東京弁護士会から業務停止2ヵ月の懲戒処分を受けた。多くの弁護士を擁する法律事務所にこれほどの重い処分が下されるのは異例。今回の法律放談は、この処分の背景について考える。(聞き手=本誌編集部)

アディーレ法律事務所に下された処分は、非常に重いものです。2ヵ月間休止した後、すでに受託している業務を再開できるわけではなく、いったんは契約を解除しなければなりません(所属弁護士が個人名義で契約を引き継ぐことは可能)。処分から数日間、アディーレに問い合わせの電話が集中したこと、Webページでの告知を行わなかったことから、全国の依頼者に不安が広がり、東京だけでなく全国の弁護士会が対応に追われました。

アディーレは全国47都道府県に85の支店を持ち、旭川市内にも支店を構えています。所属弁護士は業界6位の180人です。他の大手は外国企業との交渉や訴訟手続きを手がける国際的な法律事務所であり、一般の個人を主な顧客とする法律事務所としては最大手と言えるでしょう。

処分の理由は、事実と異なる宣伝です。具体的には、5年近く着手金無料または割引を続けていたにも関わらず、「期間限定で着手金無料または割引」と宣伝していたことが、景品表示法に違反しているとして、昨年2月に消費者庁から措置命令を受けました。東京弁護士会はこうした行為が「弁護士法人として品位を失うべき非行」と判断した上で、法人のアディーレに業務停止2ヵ月、創業者で元代表の弁護士個人に同3ヵ月の懲戒処分を下したわけです。アディーレは業務を停止したものの、同時に処分を不服として日弁連に審査請求する姿勢を示しています。

事実と異なる宣伝は不適切ですが、それほど悪質なものとは思えません。大阪には25年以上「閉店セール」の看板を掲げ続けた店がかつてありましたが、この店に対する批判は聞いたことがありません。ではなぜ、業務停止2ヵ月という厳しい処分が下ったのでしょうか。

長きに渡り消費者金融会社と闘ってきたいわゆる人権派弁護士が過払い金返還請求の根拠となる最高裁判決を勝ち取ったのは2006年のことでした。その後、過払い金請求訴訟はどんな弁護士でも勝訴して報酬を確保できる分野となりました。一部の法律事務所は大量の宣伝や薄利多売などの手法を用いて過払い金請求事件を大量に受任して多額の利益を獲得しました。その典型例がアディーレです。長きに渡る人権派弁護士の努力の成果にタダ乗りしたわけですから、こうした法律事務所は「厚かましい」「図々しい」と批判されても仕方がないでしょう。しかし、厚かましくても、図々しくても違法ではありませんので、厳しい処分の理由にはなりません。また、過払い金請求訴訟に関しては多くの弁護士が多かれ少なかれ同様にタダ乗りしており、五十歩百歩に過ぎません。結局、事実と異なる宣伝という軽微な違法行為にかこつけて、実質的にはアディーレの営業態度に見せしめ的に重たい処分を下したと言えるでしょう。

過払い金請求訴訟の件数はピーク時よりも大幅に減っており、消滅時効(過払い金発生後最終取引日より10年)の関係上、いつかはなくなります。すでに過払い金請求訴訟で弁護士が事務所経営する時代ではありません。宴は終わりました。