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北海道経済 連載記事

2017年11月号

第92回 裁判官と検察官の密接な関係

刑事裁判の法廷で論争を繰り広げる検察官と弁護士。裁判官は両者を公平に扱うのが建前だが、裁判官と検察官は役人同士であり、密接な関係にあるのが実態だ。そのため、裁判官は弁護士よりも検察官を優遇しているとの見方がある。今回は裁判官による検察官の優遇をうかがわせる事例を紹介する。(聞き手=本誌編集部)

審理を終えた裁判官は、判決を書面にまとめて、判決公判でそれを読み上げるーこれが「判決言渡」です。民事裁判ではその通りなのですが、刑事裁判は若干事情が異なります。

刑事裁判でも最後に判決公判が開かれ、裁判官が判決を言い渡します。しかし、必ずしもこの時点で判決文が出来上がっている必要はなく、裁判官は自身の手控えやメモで「判決の骨子」を言い渡すことがあります。被告人の弁護人や検察官は一定の期間を経てから判決謄本を取り寄せることができるようになります。

最近、ある裁判に現職の検事が出廷し、かつて担当した複数の裁判で、判決公判後に判決の原稿を裁判所から提供されたと証言しました。弁護人に同じタイミングで判決の原稿は提供されず、裁判所は不当に検察だけを優遇していたことになります。こうした慣例の存在は指摘されていましたが、当事者が正式に認めるのは初めてです。

判決の内容は判決公判で裁判官が読み上げますが、複雑で長い判決の場合には、メモを取るのが間に合わず、控訴するかどうか検討するために書面で判決の詳細な内容を吟味する必要があります。実際には、民事訴訟法によれば、控訴期限は「判決の正本(謄本)の送達から2週間以内」とされており、送達が遅れるほど期限も先に伸びるので、こうした慣例だけで被告人が不利な立場に置かれたと断定することはできませんが、この証言は刑事裁判における裁判官と検察官の密接な関係を明らかにしたと言えます。

同様の例は他にもあります。保釈中の被告人の判決公判のため法廷に入ると、傍聴席に見慣れない人物が控えていることがあります。被告人の保釈が裁判所に認められたということは有罪でも執行猶予が付される可能性が高いと予想しがちですが、予想に反して実刑判決が言い渡された場合は、同時に保釈の効力が失われるので、判決言い渡し直後に、傍聴席の人物が被告人を拘束し、そのまま拘置所等の刑事施設に収容してしまいます。判決言い渡し前に身柄拘束の準備をしているわけですから、これも裁判官から検察官に対して、弁護人よりも早く、判決内容が伝えられていることを示しています。

法曹は弁護士、裁判官、検察官から構成されますが、このうち裁判官と検察官の関係は、弁護士と他の法曹の関係よりも密接です。2012年までは一定期間にわたり検察官が裁判官に、裁判官が検察官になる「判検交流」が行われていました(民事裁判については現在も継続)。また、行政訴訟で国の代理人を務める「訟務検事」は裁判官が転官して務めるのですが、裁判がフェアでなくなるほか、裁判官がやがて裁判所に戻り、類似した訴訟を担当すれば国に近い立場から判決を下す可能性があり、この制度も裁判の公正さを損なうとの批判があります。

冒頭で紹介した判決原稿の検察官に対する迅速な提供は、日本の刑事裁判制度に通底する「なれ合い」を如実に示したと言えるでしょう。