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北海道経済 連載記事

2017年9月号

第90回 民事裁判の長期化傾向

裁判所は裁判のスピードアップを目指しているが、昔なら裁判になりにくかった事案の民事裁判が長期化する傾向があるという。今回の「辛口法律放談」は裁判長期化の理由と背景に注目する。(聞き手=本誌編集部)

7月21日に最高裁判所が、判決が出たり和解がまとまったりするまでに時間がかかる民事訴訟の比率が高まっているとの報告書を公表しました。

端的に言えば、多くの事件で弁護士が介入するようになったので、裁判が長期化したのだと思います。例えば、家庭裁判所の管轄する離婚関連の事件は、一昔前であれば調停の段階では弁護士がつかないのが一般的でしたが、いまでは最初から弁護士がサポートする事例が増えています。交通事故にも弁護士が関わるようになりました。自動車保険で「弁護士特約」を選択できることが影響しているのでしょう。

弁護士は裁判において主張と主張を裏付ける証拠を提出するので、これを巡って議論が繰り広げられ、結論が出るまで時間を要するのは必然です。

最高裁の報告書は、名誉毀損や金融商品がらみの損害賠償、親族による遺産の使い込みなどに関連した裁判うち、1年〜1年半の時間がかかったものの比率が2007年の32・2%から16年は47・1%に増加したと明らかにしています。こうした分野の紛争にも弁護士が積極的に介入して訴訟活動を行っているのでしょう。このような傾向の背景に、過去10年間の弁護士数の急増という事情があることは明らかです。

以前であれば、社会における多くの対立は、裁判所以外の場所で話し合いが行われて解決していました。例えば夫婦の関係が極度に悪化すれば、親戚が間に入り、近所同士のトラブルは町内会長が双方から聞いて解決策を提案することも多かったはずです。一方で、対立する当事者のうち、立場の弱い方が泣き寝入りすることも多かったかもしれません。法律に基づき、裁判という公平な場で紛争が解決されること自体は歓迎すべきことです。

その反面、裁判で真実が明らかにならない場合や非常識な結論になる場合もあり、当事者が納得できないことも多々あります。端的な例を挙げれば、交差点で自動車2台が衝突したとしましょう。どちらかに一時停止の義務があったわけでもなく、目撃者も証拠もなく、双方が「相手の信号無視だ」と主張すれば、裁判所は両者の過失割合を「5対5」と判断せざるを得ません。信号無視はどちらか一方で、客観的にどちらの過失も同じと考えるのは不自然ですが、どちらの過失なのか断定する根拠がない以上、仕方がありません。

もう一つの例として、妻側の事情で不仲となり妻子と別居していた夫が急死し、妻が莫大な遺産を手にしたと仮定しましょう。死亡した夫を葬儀に出した夫の兄弟が、せめて葬式費用だけでも出して欲しいと妻に懇願しましたが、妻は1円たりとも負担しませんでした。この状況では、社会常識では、妻は獲得した遺産の一部で葬式費用を支払うべきと思いますが、こうした主張には法的な根拠がないため、裁判を起こしても認められません。

解決まで時間と費用がかかることも、裁判の短所です。依頼者がトラブルを裁判で解決したいと願うのなら、弁護士は全力でサポートしますが、長い時間や多額の費用がかかると予想される場合、それが適切な選択かどうか、慎重に考えるよう薦めることもあります。