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北海道経済 連載記事

2017年6月号

第87回 弁護士間の「意見の相違」

同じ弁護士バッジをい 付けている人でも、その 主張はさまざま。日弁連 が猛反対する法案に賛成 する弁護士もいる。今回 は死刑廃止論議を切り口 に弁護士間の意見の相違 について考える。(聞き手=本誌編集部)

弁護士法第1条には「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と明記されています。弁護士は個々の依頼者が直面する問題を解決するのをサポートすると同時に、社会的な問題にも取り組んでいます。

こうした活動を象徴するのが、日本弁護士連合会(日弁連)や各地の弁護士会が発表する数々の声明です。

しかし、全国に3万6000人以上いる弁護士の意見はさまざまです。中には弁護士の「総意」としてこうした声明や意見が発表されることに異を唱える人もいます。テレビによく出演している弁護士の北村晴男氏が最近SNSで述べた、「(弁護士)会や会長の名前で意見書や声明が出される。中には共産党や社民党等の主張にそっくりで、自分の主張と真反対なものがよくある。『俺は政党に入ったんじゃ無い!』と叫びたくなる」との嘆きが、その典型でしょう。

弁護士間の意見の相違を浮き彫りにしたのが、昨年10月に日弁連が福井市で開いた「人権擁護大会」で採択された「2020年までに死刑制度の廃止を目指し、終身刑の導入を検討する」との宣言です。日弁連が公式に死刑廃止を求めるのはこれが初めてで、相次ぐ冤罪事件や、世界の多くの国ですでに死刑制度が廃止されていることが、宣言の背景にあります。

こうした重要な宣言は全会一致が理想でしょうが、採決前の討論では犯罪被害者の支援活動に取り組む弁護士から「死刑は存続させるべき」との意見が表明されました。多数決で採択されたものの、反対者や棄権者も多く、賛成者の比率は7割弱でした。これほどの反対が出るのは異例です。

日弁連は集団的自衛権をめぐる憲法解釈、共謀罪の創設について、政府与党の主張と反対する立場を取っています。しかし実際には与党の姿勢に賛同する弁護士も少なくありません。調査をしたわけではありませんが、私の感覚では、弁護士のうち約3割は現在の与党寄りの政治的信条の持ち主ではないかと思います。

日弁連や各地の弁護士会は政治的に微妙な問題について賛成だの、反対だのと活動することは控えるべきとの見方がありますが、私はそうは思いません。死刑は人権侵害の最たるものであり、共謀罪などは、基本的人権を著しく侵害する可能性があるためです。医師は、病気になった人を治療する一方で、病気にならないよう予防医療を提供しますが、弁護士も人権侵害が生じた後の救済活動だけではなく、人権侵害を未然に防止する活動もするべきと思います。

「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という使命に異を唱える弁護士はいないでしょう。ただ、その方法論は人によって異なります。死刑制度を存続すべきだと考える弁護士は、廃止すれば犯罪被害者やその家族の人権が損なわれると考えています。軍備を強化して他国からの侵略を防ぎ、国民の人権を守るべきと主張する人もいます。弁護士の世界に、右から左までさまざまな意見の人がいること自体は健全なことだと私は思います。