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北海道経済 連載記事

2017年4月号

第85回 札幌高裁 多すぎる即日判決

1日のうちに裁判が完了する「即日判決」は、関係者の負担を軽減する反面、本当に十分な吟味が行われたのかとの疑問を招くこともある。今回は、札幌高等裁判所で行われる刑事裁判の控訴審のうち9割以上で即日判決が言い渡されている異常な状況に注目する。(聞き手=本誌編集部)

テレビで大々的に報道される重要な刑事裁判は、容疑者が起訴されてから判決が確定するまでに長い時間がかかります。それとは対照的に、被告人が裁判所に出頭し、その弁護士、検察官、裁判官の関与のもと最初の審理が行われる日(第1回公判期日)に裁判が結審し、判決が言い渡されることがあります。即決裁判手続(刑事訴訟法350条の2以下・被告人が起訴前に即決裁判手続によることに同意していることが必要)の場合です。即決裁判手続が取られていなくても、被告人が罪を認めており、弁護人は示談の成立などを理由に刑の軽減のみ求めている事件、裁判の前から判決内容が容易に予測できる事件、裁判所が確保している第1回公判期日の審理時間(通常は1時間)の内に審理と判決言い渡しを終えることができる事件の場合には、第1回公判期日に判決が言い渡されることがあります。逆に言えば、被告人が犯行を否認している事件、無罪か有罪か、または執行猶予が付くか実刑か微妙な事件、審理に何時間もかかるような事件で、即日判決はありえません。刑事裁判は刑罰を科し、被告人の人権に大きな影響を及ぼすわけですから、慎重な審理が求められるのは当然です。

ところが最近、札幌高裁の刑事裁判における即日判決が高いことが明らかになりました。新聞報道によれば全国8ヵ所にある高等裁判所のうち、札幌を除く7ヵ所では刑事事件の控訴審の判決のうち、即日判決は1割未満なのに、札幌高裁だけ9割を超えています。いうなれば、札幌高裁は「刑事の控訴事件については一審の判決内容を維持することを原則としている」状態です。北海道弁護士会連合会は札幌高裁に対し、「控訴人(被告人)側の主張を検討せず、簡単に控訴を棄却した印象が拭えない」と指摘しています。

札幌高裁ではもともと即日判決の比率が高かったのですが、現在の部総括判事(刑事裁判部門のトップ)が赴任してから比率が一段と高まりました。この判事は「判決ができる状態である以上は、先延ばしにする合理的な理由がない」と反論したと伝えられています。

札幌高裁の即日判決は、被告人が犯行の事実は認めながらも量刑が重すぎるとして控訴した裁判だけでなく、慎重な審理が必要なはずの否認事件でも言い渡されています。道弁連が反発するのは当然でしょう。

裁判の件数が全国的に減る傾向にあることを考えれば、札幌高裁も本来なら一つ一つの裁判の審理により長い時間を充てることができるはずです。それにも関わらずそそくさと裁判を終わらせようとしているのは、目的の一つに経費節約があるのかもしれません。

法学の入門書には、「刑事裁判では民事裁判よりも厳格な立証が求められる」と書いてあります。実態はそうではなく、むしろ民事裁判の方が厳格な立証を求められており、原告の主張の「事実」はなかなか裁判官に認めてもらえないのに対し、刑事裁判では多少怪しいものでも裁判官が「事実」と認めてしまう印象があります。厳格な立証が求められるかは裁判官次第ということです。札幌高裁の高すぎる即日判決の比率は、こうした実態を改めて浮き彫りにしたと言えそうです。