しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第79回 NHK受信料、支払い強制は不当

北海道経済 連載記事

2016年10月号

第79回 NHK受信料、支払い強制は不当

朝の連続テレビ小説、大河ドラマ、若者の貧困をめぐる特集…。NHKのテレビ番組が人気や話題を集めているが、その一方で、テレビを購入して設置した人に一律に受信契約の義務を負わせるのは不当だとの批判が以前からある。今回の法律放談は、8月末に下されたNHK受信契約に関する判決に注目する。(聞き手=本誌編集部)

さいたま地裁は8月26日に下した判決の中で、ワンセグ機能付き携帯電話の所有者にNHKと受信契約を結ぶ義務はないとの判断を示しました。この裁判では埼玉県に住む男性が、携帯電話は受信契約締結義務の対象外だと主張して、NHKを相手に裁判を起こしていました。敗訴したNHKは判決を不服として控訴する方針を示しています。

さいたま地裁の裁判官は判決理由で「放送法の『設置』という言葉はテレビなどを念頭に一定の場所に据えるという意味で使われてきたと解釈すべきで、携帯電話の所持は受信設備の設置にはあたらない」と指摘しています。「設置」という文言を拠り所にNHK敗訴の判決を言い渡したわけですが、受信料制度の矛盾を正面から指摘したわけではありません。

NHKは受信料の支払いを拒否している人を次々と訴え、受信契約書が虚偽である可能性が指摘されたなど特殊な事例を除いては、概ねNHKの主張を認める判決が言い渡されてきました。一審でNHKが敗訴した道内の裁判でも、二審ではNHKが逆転勝訴しています。ワンセグをめぐる裁判でも、最終的にはNHKの主張が通る可能性があります。

私自身、高校野球中継やニュースなどNHKの番組をよく観ていますが、NHKの番組を観ているかどうかに関わらず、テレビを購入して設置した時点で受信契約の締結義務があるとする現在のしくみが妥当だとは思えません。受信料は放送法第64条の「(日本放送)協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」との条文に基づき徴収されています。しかし、「設置した者」の同意の有無や、視聴するしないに関わらず契約を義務付けるのは強引です。やっていることは注文もしていないのに高齢者にカニを送りつけ、即返品しない限り、代金を請求する悪徳商法と同じです。

以前なら、テレビを購入して設置した人にNHKだけ見せないことは技術的に不可能でしたが、現在は特定のチャンネルを、お金を払った人にだけ見せるスクランブル放送の技術がすでに確立しており、テレビを設置した人すべてに対する契約の義務付けの必然性は、一段と薄れていると言えるでしょう。

民間企業と個人の間の商取引を巡る事件の裁判では、裁判所は「民間企業が十分な説明を行っていなかった」「個人が契約の意思を明示しなかった」などと認定し、個人の権利を救済する傾向にあると思います。ところが、公権力と民間の裁判になると、そうは行きません。行政訴訟で国や地方自治体相手に勝訴することは絶望的に難しく、刑事裁判で起訴されてしまうと、えん罪を主張しても、まず認められません。

国営放送のNHKがかかわる裁判の判決には、こうした裁判所の傾向がよく表れているといえるでしょう。