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北海道経済 連載記事

2016年9月号

第78回 弁護士稼業は「同時進行」

世間の仕事は目の前の作業を完了したあとで次の作業に移る集中型と、少し進んだら別の作業に移り、全体として少しずつ進行させていく分散型に大別される。小林史人弁護士によれば、弁護士業務は典型的な分散型だ。(聞き手=本誌編集部)

テレビドラマに登場する弁護士は基本的に、1つのエピソードの中では1件の事件に集中していますが、実際の弁護士業務は、大量の案件に並行して取り組むかたちで成り立っています。

個々の弁護士によって違いはあるでしょうが、私の場合は民事、刑事、家裁、簡裁などをすべて合わせておおよそ60-70件の案件に同時進行で関わっており、基本的に年間に民事家事で40-50件、刑事10数件、債務整理20件、合計70-80件の事件を処理しています。

裁判所は毎週月曜日から金曜日まで開廷していますので、民事家事事件については1開廷日に2件ずつ、裁判期日を入れて出廷するようなスケジュールを組むようにしています。こうすれば5週間で手持ちの民事家事を一通り進めることができます。法廷業務のほか、調査や書面作成、各種法律相談、弁護士会の会務にも時間がかかります。旭川弁護士会の会長当時は、日中は会務に費やす時間がどうしても多くなり、夜は会議や会合に出席しなければなりませんので、早朝に手持ち事件の書面作成を行って、なんとか事件を進めていました。

余裕のまったくない予定を組むと突発的な事態が発生したときに対応できないので、スケジュールには二週間に一日程度、仕事を何も入れない「予備日」設けるようにしています。

それなりの件数を並行して進めているのですから、いつまでに何をしなければならないのかを把握するためにスケジュール帳は不可欠で、私はスマホではなくスケジュール管理のできる手帳を現在でも使っています。幸いこれまで経験はありませんが、もしも手帳を紛失すれば一大事です。

また、私は事件ごとに別々のファイルを用意して、事件記録をひとまとめにしており、一事件で事件記録が厚さ約30センチ以上になることもあります。このように事件情報を管理して複数の事件を同時に進めても、頭が混乱しないようにしています。が、実際は混乱することも度々です。

近年の弁護士の収入が下落しているのは、事件数の減少の他、事件1件あたりの報酬が下落していることにもよります。破産1件で30万円、過払い金について高額の報酬を取っていた時代は今は昔となり、現在は破産1件14~15万円、過払い金事件は皆無です。高額の金銭が動く事件は少なくなり、離婚等の非財産的事件が増えています。

自らの生活、事務所の維持経費を考えれば、単価が下落した分、たくさん事件を受任しなければならないのですが、私は赤字経営にさえならなければいいと思っているので、収入が下落してもあまり気にならず、売上アップのために躍起になることもありません。

それなりの件数の事件を同時進行させて生活していると、難しいのは盆と正月、ゴールデンウィークの過ごし方です。長い休みを取ると調子が狂ってしまい、「社会復帰」するまでに時間がかかります。また、出張に出ると、手持ち事件の記録が手元にないので、何か気が付いたときなど、早く帰ってチェックしたくなります。

性格的に休みを取っても手持ち事件のことが気になって完全に休むことのできないので、草野球に興じたり、出張した際にご当地のうまいものを味わうといった比較的短時間で済むリフレッシュが性に合っていると思っています。