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北海道経済 連載記事

2016年6月号

第75回 「のき弁」採用、収益は二の次

この地域にはさまざまな専門職の団体があるが、過去数年間のうちに最も急速に規模を拡大したのは旭川弁護士会だろう。今回の「辛口法律相談」は人数の急増がもたらした変化について。(聞き手=本誌編集部)

いま、旭川弁護士会には、稚内、名寄、留萌、富良野、深川の各地区を含めて72人の弁護士が所属しています。72人を登録順に並べれば、弁護士歴15年、ほかの業界なら「中堅」に位置していると思われる私は16番目です。つまり、私よりも弁護士歴の浅い弁護士が56人いることになります。この数字からも、この地域の弁護士の「人口ピラミッド」のいびつさがわかります。

司法制度改革で弁護士になる人が急増した結果、旭川弁護士会にも多くの新人が毎年加わっていますが、ほとんどの場合、彼らは「のき弁」となります。先輩の弁護士(親弁)が経営する既存の法律事務所で「のきさき」(机や電話)を借り、事務作業を事務員に頼る代わりに、売上の3割程度を納めて事務所経費を一部負担するしくみです(親弁から固定給をもらう「いそ弁」(いそうろう弁護士の略)というしくみもありますが、旭川弁護士会の管内では少数派です)。のき弁は親弁から、ロースクールや専門書では学べない弁護士の実務を学び、また所属する法律事務所の「のれん」の力を借りて人脈を広げながら、独り立ちをめざします。

一般的に、弁護士の数が1人から2人に、2人から3人に増えたところで、事務員を増やさない限りは事務所経費が急増するわけではありませんので、計算上、のき弁を迎えた親弁は損をしないはずです。しかし、登録してすぐには多くの依頼は来ません。登録して半年くらいは、ほとんど収入がなく、他方で高額な会費が発生するので、若手の多くはなんとか生活しているのが現状です。月の売り上げが10万円以下ということもあり、そのうちの3割をのき弁から経費として徴収するという鬼のようなことは親弁として普通はできません。逆に、親弁は自分の伝手できた事件をのき弁に紹介したりもするので、結局、給料を支払っているのと相違ありません。親弁もそれはわかっていますが、後進の育成という社会的な意義を考えて、収益度外視でのき弁を迎えているのが実情です。就職状況は厳しく、本州の大都市圏や札幌での就職がかなわかったために、日本最北端の旭川弁護会の管内で就職する者もいます。他に行き先はありませんから、本人や知り合いの弁護士に採用を強く頼まれれば、むげには断れません。

大都市圏では、司法修習を終えた人が既存の法律事務所に就職できなかったために個人の事務所を構える「即独」を強いられる人もいます。旭川弁護士会の管内で近年、即独はありませんが、事件数は減少しており、法律事務所側のキャパシティにも限りがありますから、いつかは即独する人が現れるかもしれません。

いま、日本には3万6000人余りの弁護士がいます。私が登録したころには約1万8000人でしたから、15年で2倍に増えたことになります。債務整理や、過払い返還請求が急増したころには弁護士へのニーズも急激に高まったのですが、これらの「特需」が落ち着いたいま、司法試験合格者数を需要に見合った数に見直すべきと思います。