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北海道経済 連載記事

2016年4月号

第73回 虚構世界の弁護士たち

法律が生活のあらゆる場面に関わる現代社会では、テレビや映画などの映像作品にも弁護士が頻繁に登場する。今回の法律放談は現実世界の弁護士から見た虚構世界の弁護士について。(聞き手=本誌編集部)

弁護士が登場する作品を意識的に見ているわけではありませんが、テレビをつけたときに映っていたりすると、ついつい見入ってしまいます。

2時間ドラマなどでは、弁護士が犯罪に遭遇したり、真犯人と格闘したりする場面もあるようですが、現実の世界ではまず起こらない状況です。また、ドラマの中の刑事裁判で敏腕弁護士が不利な状況を覆して無罪を勝ち取るのも非現実的です。実際の刑事裁判で被告人が逆転で無罪を勝ち取るのは、違法な捜査が行われた、DNA鑑定で新たな証拠が出たなど特殊なケースに限定されています。しかし、ドラマでは毎回、証人が法廷で真相を語り始めたり、真犯人が突然現れたり、決定的な証拠を弁護士が入手したりします。もっとも、娯楽作品ですから現実離れした内容になるのは、むしろ自然なことなのかもしれません。

司法試験受験はドラマにしても面白くないからでしょうが、多くの主人公が簡単に試験をパスしてしまうことには閉口しました。旧試験の時代には、私を含め何度も不合格を経験してから弁護士になる人が大半でしたので、いい加減なあらすじだと感じたものです。

「101回目のプロポーズ」では武田鉄矢演じる主人公は法学部卒でありながらも訳あって法律家の道をあきらめていました。浅野温子演じるヒロインと出会い、司法試験に合格したらプロポーズしようと決めて、猛勉強して受験、手ごたえを感じたものの、結果は不合格。このあたりは実態に即したものでしたが、もし武田が合格するようなら見るのをやめようと思いました。

同じ頃のドラマとしては、連続テレビ小説「ひまわり」は司法修習に焦点をあてており、松島菜々子演じるヒロインが司法修習を経て弁護士になるまでの足取りを丹念に描いていた印象があります。最近のドラマの中では菅野美穂主演の「曲げられない女」も、あきらめずに何度も司法試験に挑戦する女性を描いていました。このタイプは実際にいると思います。

裁判の手続を緻密に描写した作品としては、山崎豊子原作の小説で、何度か映画化、ドラマ化された「白い巨塔」を挙げることができるでしょう。2003年版のドラマでは唐沢寿明が演じた医師・大学助教授の財前は医療過誤で訴えられるのですが、一審では勝訴します。小説の「続・白い巨塔」では、告知義務違反を理由に少額の賠償が命じられ、名目上は被告敗訴、実質的には被告勝訴の判決が下されます。小説が発表されてから半世紀以上が経過していますが、医療訴訟で原告(患者側)が勝つのが非常に難しいという状況は、現在でも変わっていません。

さて、これらの作品に影響を受けて弁護士の道を志したという話はあまり聞いたことがありませんが、平成10年ころから検察官志願者は増加しています。木村拓哉が検察官に扮した「HERO」が人気を集めたことで検察官の職業イメージが良くなったことは確かであり、ドラマ上の虚構の人物が志願者増加に一役買っているのかも知れません。