しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第71回 8年間の仕事、もうすぐ一区切り

北海道経済 連載記事

2016年2月号

第71回 8年間の仕事、もうすぐ一区切り

弁護士の担当する業務の中には、着手してから結果が出るまでに数年の月日がかかるものがある。今回の「辛口法律放談」は、着手して丸8年が経過した事案を振り返る。(聞き手=本誌編集部)

私は弁護士としてさまざまな事件や裁判を担当してきましたが、その内容によって短期間のうちに完了するケースもあれば、数年という長い時間がかかってしまうケースもあります。

比較的短期間のうちに終わるのは刑事事件です。一例を挙げれば、一昨年11月に私が受任した刑事事件の裁判は、被告人が容疑を否認し、一審、二審を経て、最高裁に上告したものの、被告人が上告を取り下げたため1年弱で決着が着きました。被告人が容疑を認めている自白事件なら、1回の審理だけで判決が言い渡され、控訴もしないので数か月で確定します。

これとは対照的に決着までに長い時間がかかることが多いのが、相続に関する事件です。相続人の数が多く、遺産の範囲や分割方法に納得しない人がいると長期化します。私が現在担当している案件のなかには、着手からすでに4年が経過しているものもあります。

もうひとつ、着手から長期間取り組んでいるのが薬害C型肝炎にまつわる裁判です。2008年1月に被害者を全員一律救済するための法律が制定されたことを受け、旭川弁護士会ではその直後に「薬害C型肝炎患者救済に関する旭川弁護団」を設置しました。最初の相談会には50名超の感染者や肝炎患者が相談に訪れましたが、ほとんどは血液製剤の使用を証明するカルテなどの証拠がなく、提訴に至ったのは3件にすぎませんでした。

Aさんも最初の相談会に訪れた相談者のひとりで、旭川市内で年に2~3例しかない難しい手術を受けたのですが、カルテは残っていませんでした。執刀した主治医はすでに死亡し、協力医もいなかったため国を相手に提訴しても当時は勝訴は見込めませんでした。

ところが、2013年1月、他の被害者の裁判での旭川地裁の和解勧告で、状況が変わりました。これもカルテのない事案でしたが、医師の子息の証言と母子手帳に残っていた大量出血を示す記載が間接的な証拠となり、裁判所は国に給付金の支払いする方向で和解を勧告し、国もこれを受け入れて和解が成立しました。

この和解でAさんについても提訴の道が開かれ、証人となる協力医を改めて探したところ、手術の際に助手を務めた医師の証言が得られることになり、ようやく提訴に至りました。Aさんや他の被害者が原告となった裁判については、本年2月以降に旭川地裁が見解を示すことになると思われます。和解勧告を期待してやみません。最初の相談会から8年以上をかけてここまで来たわけですから、旭川弁護団の団長である私にとっては感慨深いものがあります。Aさんご本人の努力はもちろん、ご家族の献身的な支えがなければ、ここまでは来られなかったでしょう。しかし、和解に至らない場合はさらに数年、訴訟が続きます。救済への道のりが長過ぎます。

これまでに給付金の獲得に至った人はごく一部であり、薬害によるC型肝炎感染が疑われる人の大半は、カルテや医療関係者の証言を得ることができず、提訴に至っていません。給付金の請求期限は2018年1月に設定されており、それまでに証拠や証人を探して提訴をする必要があります。「長丁場」の薬害C型肝炎訴訟ですが、タイムリミットが迫っています。