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北海道経済 連載記事

2015年11月号

第68回 司法試験問題漏えいについて考える

試験問題漏えいに司法試験制度が揺れている。小林史人弁護士は、再発防止のため司法試験制度の抜本的見直しを提唱する。(聞き手=本誌編集部)

明治大学法科大学院(ロースクール)の元教授が、考査委員として作成した司法試験の論文問題の内容を、教え子である女性に試験前に漏らしたことが大きな問題になっています。司法試験の信頼の根幹に関わる深刻な事態ですが、こうした不正が明らかになるのは初めてではありません。07年にも慶応大学法科大学院の教授が、学内の「答案練習会」で試験問題と類似の論点を学生に教えたことが漏えいにあたるとの批判を集めました。

明治大の一件は、元教授が教え子の女性に好意を寄せていた、女性への指導内容が、元教授が試験後に作成した模範解答の内容と類似していたなどの点で異常なケースですが、程度の差こそあれ、同様の行為が他の法科大学院でも行われている可能性があります。

いま法曹養成のしくみの中核にある法科大学院は、全国に国公立と私立合わせて45校(募集停止した学校を除く)ですが、地方にある法科大学院の苦戦が目立ち、すでに一部が募集停止に追い込まれたほか、文科省から補助金支給の停止を通告される法科大学院も出てきました。

学生の資質の差が合格者数の差に反映されていると思われがちですが、実は東京や大阪近郊の大学を卒業して地方の法科大学院に進む学生も多くいます。格差には、問題の作成と採点を担当する考査委員のうち研究者の多くが、東京や大阪近郊の法科大学院の教授によって占められていることが影響していると考えるべきでしょう。地方の法科大学院には次の司法試験問題についての情報がなかなか流れてこないため、地方の法科大学院の学生は試験を受ける前から不利な立場に置かれています。

私は旧司法試験を受験しましたが、当時も東京大や早稲田大、一橋大など有力な考査委員の授業がある大学に出かけていって潜り込んで出席していました。1年間の授業のなかで触れなかった分野から出題されるとは考えにくいためです。

また、私が旧司法試験を受験していたある時期から、慶応大学出身の合格者が急増したことがありました。しかも、法学部の授業を受けている現役学生や卒業1、2年の若年合格者が他の司法試験上位校に比べて多かったのが特徴でした。このため慶応大の漏えい疑惑を聞いたときには、意外だとは思いませんでした。

司法試験の問題を作成する人が法科大学院で学生を指導している限り、同様の不祥事はこれからも起きる恐れがあります。考査委員を完全に法科大学院から切り離すなどの対策が必要でしょう。

今年の司法試験では1850人が合格しました。この数字は政府がかねて掲げていた目標の半分ですが、それでも少子高齢化で法的サービスへの需要は先細りしており、若手弁護士が仕事を見つけるのは困難な状況です。合格者のうち、法科大学院に入らず、本来は経済的に恵まれていない人を想定した制度である予備試験を経由して司法試験に合格した人は186人まで増え、合格率も法科大学院出身者に比べて予備試験出身者の方が格段に高いため、法科大学院の存在意義が揺らいでいます。今回の試験漏えいを契機に、抜本的な制度の見直しを行うべきではないかと考えます。