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北海道経済 連載記事

2015年10月号

第67回 検察審査会は身内の犯罪チェックすべき

7月末、検察審査会が東京電力元会長らを「起訴すべき」との議決を行い、強制起訴が決まった。今回の法律放談はこの検察審査会制度について。(聞き手=本誌編集部)

検察官が起訴しなかった事件について、くじで市民のなかから選ばれた11人の審査員が、その是非を判断するのが検察審査会です。東電の旧経営陣は、福島第一原発事故をめぐり業務上過失致死傷罪などで告訴・告発されたものの不起訴になり、住民からの申し立てを受けた検察審査会が「起訴相当」と判断。検察は再捜査を行いましたが、またも不起訴でした。自動的に検察審査会により2回目の審査が行われ、起訴すべきとの議決(「起訴議決」)がなされたわけです。これにより旧経営陣3人は強制起訴されることになります。

検察審査会が社会の注目を集めるようになったのは、2009年5月に司法改革の一環として、1回目の審査で「起訴相当」ないし「不起訴不当」、2回目の審査で「起訴議決」がなされた事件が強制起訴されるようになってからです。それ以前は強制力がなく、実際の判断は検察官に任されていました。

旭川にも検察審査会は設置されており、最近では今年3月、留萌管内の農協で起きた横領事件について「不起訴不当」と議決し、これを受けて旭川地検は元職員を起訴しています。

これまでに強制起訴に至った事件は福島原発事故を含め9件あります。この中には社会的に大きな注目を集めたものが少なくありませんが、小沢一郎氏の政治資金規正法違反事件(1、2審とも無罪、確定)、尖閣沖漁船衝突事件(巡視船に体当たりした中国戦の船長が釈放され帰国したため公訴棄却)など、いずれも有罪判決には至っていません。これまでに唯一、有罪判決が確定したのは、四国のある町の町長による飲食店従業員への暴力行為の有無が争われた裁判だけで、科料は9000円でした。いったんは検察が起訴する必要がないと判断した事件ですから、無罪で決着することが多いのは自然な結果と言えるでしょう。理屈や裁判の行方はともかく、市民感情から言って不起訴は納得できないと審査員が感じる事件が強制起訴されているのが、この制度の実態です。

また、刑事事件の被疑者と被害者の間の交渉がまとまらず、検察審査会への申し立てが行われることがあります。取り調べでは被疑者が反省を示しており、被害者も厳罰を求めなかったため、検察も情状を酌量して不起訴としたが、途端に被疑者の態度が変わって弁償を拒否したために、被害者が被疑者の厳罰を求めるといった場合です。もっとも、いったん厳罰を求めなかった以上、なかなか「起訴相当」の議決には至りません。

私は、検察審査会は今後、検察や警察の関係者の行為が不起訴とされた事案について、その妥当性を積極的に審査すべきだと思います。捜査機関が身内の犯罪に甘いためです。たとえば03年に発覚した道警の裏金疑惑では、懲戒・減給といった内部処分が行われ、元幹部や現職幹部が告発されたものの、検察は不起訴で捜査を終結させてしまいました。検察審査会は「起訴相当」との結論を出しましたが、当時は強制力がありませんでした。仮にこの疑惑が09年以降に明らかになっていれば、強制起訴を経て、道警内の悪弊が裁判で解明されていたかもしれません。