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北海道経済 連載記事

2015年8月号

第65回 集団自衛権行使は明確に違憲

国会では連日、「安保法制」をめぐって白熱した論議が繰り広げられている。今回の法律放談は、集団的自衛権について考える。(聞き手=本誌編集部)

ある国が他国から直接攻撃を受けていなくても、同盟国が攻撃された場合、協力して反撃する権利を「集団的自衛権」といいます。日本が他国から直接攻撃された場合に反撃する権利(個別的自衛権)は行使できるが、集団的自衛権は憲法に照らし合わせれば行使できないというのが政府の従来の立場でした。ところが、安倍政権は昨年、この解釈を変更。今年に入り、集団的自衛権の行使につながる法整備(安保法制)を進めています。

日本国憲法の条文を読めば、集団的自衛権の行使が違憲であることは明白です。実際、先日の憲法審査会で証言した3人を含め、憲法学者のほとんどは「違憲」との立場をとっています。弁護士の大半も同じ見解であり、5月27日には旭川弁護士会も「安全保障法制改定法案に反対する会長声明」を発表しました。

政府や自民党、公明党は、1959年の砂川事件最高裁判決を、集団的自衛権が行使できるとの憲法解釈の根拠にしていますが、そもそもこの判決は集団的自衛権はおろか個別的自衛権についての判断すら棚上げにしており、論法として非常に無理があります。

安倍晋三首相は今年4月末から5月にかけて訪米したさいにオバマ政権に対して安保法制の整備を安請け合いしたために、法案の可決を急いでいるように見えます。日本には「平和憲法」があり、その内容は他の国も知っているのですから、国際社会に対して「日本はここまで国際貢献できるが、ここからは違憲なのでできない」と主張しなくてはなりません。私個人は、9条に関しては護憲派ですが、仮に集団的自衛権の行使に国民が賛成するのなら、憲法解釈を変更するのではなく、憲法そのものを改正すべきでしょう。

安保法制に反対する声が広がりつつあるとはいえ、国会では衆参両院ともに連立与党が絶対的な安定多数を占めています。会期が延長され、最終的には数の論理で与党が反対の声を押し切り、安保法制の関連法案が可決されてしまうかもしれません。

その場合、反対勢力が安保法制が憲法に違反しているとして裁判所に訴えるとの手段がありますが、最高裁は、「高度に政治的な判断は司法審査の対象外」との理論(統治行為論)に基づき、こうした重要な案件について判断を避ける傾向があります。実際、砂川事件の判決では同様の論理に基づき明確な違憲判決が回避され、しかも憲法判断を回避する旨の合意の上、判決の内容が事前にアメリカ政府に伝えられていたと言われています。9条に関して言えば、最高裁は「憲法の番人」として頼りにならず、安保法制の整備を防ぐためには国会で決着をつけなければなりません。

私は、個別的自衛権は国家の基本権であり、これを実効的なものにするための装備も必要だと思いますし、旭川市にとって自衛隊駐屯地の存在が大きな意味を持っていることも理解しています。外国から侵略される可能性に備え、かつ、他国の戦争に巻き込まれないためには、自衛のための装備を実効的なものとし、日米同盟に頼りすぎないことが大切なのではないかと思います。