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北海道経済 連載記事

2015年6月号

第63回 子が起こした事故、親の責任どこまで?

 「子どもが事故を起こせば、その親が責任を負う」という従来の司法判断とは異なる判決が、先日最高裁で下された。今回の「法律放談」はこの最高裁判決に注目する。(聞き手=本誌編集部)

2004年2月、愛媛県内の小学校で、校庭内のゴールを目がけて小学生がフリーキックの練習をしていました。ボールは門扉を飛び越えて学校近くの道路に転がり出て、その近くをバイクで通りかかった80代の男性がボールをよけようとして転倒、両足の骨を折る傷を負いました。男性は認知症となり、約1年半後に肺炎で死亡しました。男性の遺族は事故から3年後、事故当時の小学生の両親を相手に、約5000万円の損害賠償を求めて裁判を起こしました。

民法714条1項は、「子どもが事故を起こしたときは、子どもを監督する義務がある親が損害賠償責任を負う。ただし、監督義務を怠らなかったときは責任を負わない」と定めています。裁判の一審では約1500万円、二審では約1180万円の損害賠償を両親に命じる判決が言い渡されました。簡単に言うなら「子どもがフリーキックの練習をしていた場所、当時の練習方法によると、事故が発生する可能性が予見できたから、親は監督義務を怠った。ただし書き(傍線部分)の適用はなく、親が損害賠償責任を負う」ということです。

従来、裁判所はこれと同様の判断を他の同種事例でも下してきました。ほぼ無条件に親の監督義務違反を認め(ただし書きの適用を認めず)、被害者を救済してきたわけです。たとえば、坂道を歩いているときに小学生の乗る自転車に衝突され、深刻な後遺症を負った人が小学生の親を神戸地裁に訴えた裁判では、9500万円を支払うよう親に命じる二審の判決が確定しています。

これに対して、4月9日に最高裁第一小法廷で言い渡された上告審の判決は、小学生が校庭で行っていたフリーキックの練習は、その後方に道路があるとしても「校庭の日常的な使用方法として通常の行為である」とした上で、通常は危険とはみられない行為でたまたま損害が発生した場合、特別の事情が認められない限り「子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない」との判断を示しました。簡単に言えば、校庭のゴールに向かってフリーキックの練習をすることは正常な行為であって、事故は予見できなかったから、親は監督義務を怠っていない、ということです。ただし書きが適用され、親は損害賠償責任を負わないことになります。

この判決は、予見できたかどうか微妙な、偶発的な事故についての責任をめぐる他の裁判にも影響を与えそうです。ただ、前記最高裁判決では事故が発生した状況について詳細に検討を加えていることから、今後も個別の事案ごとに判断が下されるはずで、「場所が正常ならすべて許される」ということにはならないでしょう。

偶発的な事故の責任をめぐっては札幌地裁でも、札幌ドームでプロ野球の試合を観戦中、ファウルボールが顔に当たって片目を失明した女性が北海道日本ハムファイターズに損害賠償を求めた裁判で、4000万円の支払いを命じる原告勝訴の判決が3月末に言い渡されています(球団側は控訴)。札幌地裁は、ファウルボール事故が予見できたのに球団が観客の安全を守るため十分な対策を施さなかったと判断したわけですが、前記最高裁判決の影響もあり、今後の行方が注目されます。