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北海道経済 連載記事

2015年5月号

第62回 弁護士報酬 設定の難しさ

自由化されてから10年以上が経過した弁護士報酬。金額設定が個々の弁護士の裁量に任されているとはいえ、過大な報酬を請求すれば批判は免れない。今回の「法律放談」は、報酬金額の設定の難しさについて。(聞き手=本誌編集部)

弁護士に仕事を頼んだとき、その報酬はいくらになるのか。以前は日本弁護士連合会が定めた明確な「報酬等基準」、いわば「定価」が存在しましたが、弁護士法が改正されてこの基準が2004年4月に廃止されたことから、現在は「自由価格」となっています。

弁護士が依頼者に請求する費用は、その法律事務所や個々の弁護士により様々です。自由な価格競争とはいえ、弁護士が果たす公的な役割も考えなければならず、難しいところです。

金額だけでなく、計算方法についても論争の余地があります。たとえば、遺産分割に関して勝訴した場合の報酬金として「依頼者が獲得した利益の1割」と定めている弁護士がいるとしましょう。この「利益」の中に、弁護士が動いて初めて獲得できた遺産を含めることに異論はないでしょうが、弁護士が何もしなくても法律に沿って自動的に相続できた金額を含めてしまえば、市民の理解を得られるか疑問です。

市民にとって「高い」か「安い」かの判断が難しいというか、慣れていないのが刑事事件の場合の弁護士報酬です。刑事裁判の場合、量刑相場に応じて、罰金刑か、実刑か、執行猶予が付されるか、実刑の場合、刑期はどの位か、ある程度予測がつきます。また、保釈されるか否かも同様です。これらについては弁護士の力量によって結果が大きく左右することはほとんどありません。つまり、どの弁護士がついたとしても結果は基本的に変わりません。

罰金刑や執行猶予が付されることが確実な事件で、数百万円の成功報酬を取ったり、保釈請求して保釈が認められたから100万円単位で成功報酬を取っている弁護士もいると聞きます。誰が弁護人を務めても罰金刑、もしくは執行猶予、誰でも申請さえすれば認められたはずの保釈で高額な報酬を取るのはいかがなものかと思います。逆に裁判官が被告人について証拠を隠滅する恐れがあると判断すれば、弁護人がどれだけ有能でも保釈は許可されなかったでしょう。依頼者がこうした実情を知った上で100万円単位の成功報酬を支払ったのか、疑問です。

ちなみに、国選弁護の報酬は基本的に1件10万円前後です。これに保釈請求が通ったら1万円、示談成立なら3万円というように加算が行われます。罰金刑に落ちても、執行猶予がついても、加算はありません。国選弁護の費用は実感として安すぎますが、国選では加算対象外の結果に100万円単位で報酬を取ったり、国選では1万円の加算に過ぎない保釈に100倍以上の成功報酬を取ることに正当な根拠があるとは思えません。

こうした金額設定の背景には、弁護士の増加で安定的な収入を確保するのが難しくなっていることから、「取れる事件から取っておく」という意識が隠されているように思います。

さて、刑事事件の結果はどの弁護士がついても基本的に同じと書きましたが、例外は無罪判決が下された場合です。起訴された被告の大部分に有罪判決が下されている日本の刑事裁判の実情を考えれば、無罪判決を勝ち取った弁護士の能力は高く評価されるべきであり、それに見合う報酬を受け取る権利があります。