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北海道経済 連載記事

2015年3月号

第60回 少なすぎる家庭裁判所裁判官

個々の家族に関わる問題を扱う家庭裁判所は、刑事・民事事件を扱う地方裁判所と比べて目立たない存在だったが、高齢化や家族のあり方の多様化に伴い、近時は、その役割の重要性が増している。時代の要請である家庭裁判所の充実を考える。(聞き手=本誌編集部)

花咲町にある裁判所のビルの1階には旭川簡易裁判所、2階には旭川家庭裁判所、3階には旭川地方裁判所があります。裁判所書記官や定年退官した元判事などが務める簡易裁判所判事を別とすれば、この建物の中で勤務している裁判官は、所長を除いて合計8人。このうち地裁が7人で(刑事部3人、民事部4人)、家裁は1人だけです。刑事部と民事部の人数は、時期によっては3-5人の間で変動します。

裁判所内の部門に序列があるとすれば「花形」は地裁刑事部です。刑事部の裁判官がその後、大規模庁や高裁・最高裁といった上級庁の要職に就く可能性が高いように見受けられます。これに対して、家裁は「地味」で、家裁裁判官がその後、要職に就いたという話はあまり聞いたことがありません。少なくとも「出世ルート」とは言えないように思います。では、家裁の裁判官は地裁の裁判官と比してヒマかと言うと、むしろ逆です。裁判の件数が刑事、民事ともに減少傾向にあるのに対して、離婚、遺産分割、後見など、家裁が担当する事件は増加する傾向にあります。

弁護士として多くの事件に関わってきた経験から感じるのは、家裁の案件が、実に千差万別だということです。刑事事件は、犯罪の成否・量刑の問題、民事事件は、結局は金の問題で、いずれも、パターン化しやすく、法律や過去の判例に当てはめて判断しやすいのに対して、家裁の事件は親子、夫婦など当事者の感情が複雑に絡み合うだけに、杓子定規には決められない部分があります。ところが、現実には膨大な事件を少数の家裁裁判官で処理しているために、パターン化された事件処理がなされていることが多いのが現実です。

その典型的な例が面会交渉です。両親が別居し、子がどちらかの親と同居している場合、別居中の親とどのような形式で会うのか、当事者同士で決められなければ家裁が決定します。この場合、別居に至る原因、子どもへの愛情の程度、子の意思、子の生活状況、面会を求める親の生活状況等、考慮すべき要素は実に様々で面会交流の必要性もそれぞれ異なるにもかかわらず、家裁は一律に「月1回、2時間」という決定を示す傾向にあります。例えば、理不尽な理由で妻が子を連れて一方的に家を出たような状況でも、夫に与えられる面会の機会は一般的に「月1回、2時間」です。これは、特に理由もないのに子と会えなくなっている親にとっては、あまりに少なく短時間で、受け入れがたいものです。従って、面会が認められた当事者も家裁の事件処理に全く満足していないのが実情です。

また、旭川のような小規模庁の家裁の裁判官には30代の若手が就くことが多いのですが、当事者から「ずいぶん若い裁判官で大丈夫か」との声を聞くことがしばしばあります。裁判官として能力には問題ないにしても、人生経験が浅いため、夫婦間やその子をめぐる問題を、当事者の心情も理解した上で判断できるのかという不安を当事者は感じており、パターン化された事件処理と相まって不満が大きくなっているのです。

地裁の事件が減り続け、家裁の事件が増えるという現在の傾向は今後も変わらないでしょう。家裁が社会の中で果たしている役割を重視して、その裁判官を質・人数ともに強化することが必要ではないでしょうか。