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北海道経済 連載記事

2015年1月号

第58回 法テラスが「民業圧迫」

裁判制度の国民への浸透を図るため設立された法テラス。今回の法律放談では、法テラスのスタッフ弁護士が民間弁護士に与える影響を取り上げる。(聞き手=本誌編集部)

法テラス(正式名称=日本司法支援センター)は裁判制度の利用をより容易にするために設立され、2006年の秋に業務を開始した組織です。旭川にも事務所が置かれています。

法テラスの業務内容は幅広いのですが、地方でとくに重要なのが、金銭的な事情から弁護士に依頼できない人を対象とする弁護士費用の立て替えです。日本の司法制度が一般国民にとって縁遠いものであったことは事実であり、その利用を助ける法テラスの活動は社会に歓迎されるべきものであり、この観点からは、各地の弁護士会は、法テラスと協力関係にあります。他方、事件配分に関しては、競合関係となっています。

法テラスでは、常勤のスタッフ弁護士を抱えているほか(旭川の事務所にもスタッフ弁護士が1人配属されています)、相談に訪れた人をそれぞれの地域で活動する個々の弁護士に紹介しています。この弁護士のことを法テラスと契約して事件を回してもらっていることから「契約弁護士」といいます。若手の弁護士は地域社会における人脈が乏しいため、その業務の大半を法テラスからの紹介に依存する傾向が高まっています。法テラスが積極的に事件を契約弁護士に回してくれればいいのですが、スタッフ弁護士は基本的に定額の給料制であるため、法テラス・法務省としてはスタッフ弁護士にたくさん事件を回して、法テラスの収益をあげたい意向です。すなわち、スタッフ弁護士に事件を回して、定額の給料以上の着手金・報酬を得てくれれば、法テラスは潤うことなり、契約弁護士に事件を回すよりも収益があがることになります。

依頼者の金銭的負担は、スタッフ弁護士であろうと契約弁護士であろうと変わりません。ただ、事件を担当しようがしまいが、勝とうが負けようが、給料は同じだとすれば、事件を担当する意欲が薄れ、勝訴に対する執着心も薄れるのが人情でしょう。また、スタッフ弁護士は一種の公務員であり、刑事裁判で被告人の弁護を担当すれば、裁判官、検察官だけでなく弁護人も「官」になってしまい理念的に受け入れ難いことになります。その意味で、スタッフ弁護士に事件を積極的に回すべきではなく、あくまで、契約弁護士で事件を処理し切れない場合に補充的にスタッフ弁護士を利用するべきと思います。

法テラスのスタッフ弁護士が2~3人加わったとしてもそれほど影響はないとも言われますが、旭川弁護士会も会員は10年前の2倍以上となった一方、事件数は10年前に比して半減しているので、スタッフ弁護士の助けを借りなければ、事件を処理しきれないということはありません。むしろ、スタッフ弁護士1人でも、法テラスからの事件紹介に多くを依存している弁護士にとっては、影響が大きいのです。

法テラスは、社会にニーズがあるとの判断からスタッフ弁護士を増員しようとしているのでしょうが、司法改革で弁護士が急増した結果、この業界は顕著な「供給過剰」となっているのが実態です。昨今、司法修習を終えたあと所属する法律事務所が見つからず、そのまま独立(即独)する弁護士が増えていますが、ある調査によればその6割は売り上げから経費を差し引いた収入が月10万円を下回っています。このような状況でさらにスタッフ弁護士を増やすのは、「民業圧迫」であると言わざるを得ません。