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北海道経済 連載記事

2014年12月号

第57回 免責決定への「待った」に疑問

不況のために経済的に困窮し、破産を余儀なくされる人や企業がなおも少なくない。今回の「法律放談」は、この破産手続にからむ新たな現象について。(聞き手=本誌編集部)

一時期より件数は減っているものの、弁護士の主要業務の一つに破産手続があります。大まかに言えば、裁判所が、個人や法人について借金を返済できない状態にあることを認定し、借金の返済を免除することを言います。永遠に債権者から返済を求められれば再起はできず、憲法の保障する生存権さえ侵害するおそれがあることから、返済を免除することで再起を促すわけです。

一口に「破産」といっても、実際の手続は2段階に分かれます。第一に、破産手続開始の申立てがあると、裁判所が申立書などの書類を審査し、必要に応じて債務者から聞き取りを行うなどして、返済不能状態であることを認定し、破産手続開始決定を行います。第二に、裁判所が借金の返済義務を免除する決定(免責決定)を行います。これら2つの段階が混同されがちなのですが、破産手続開始決定は、債務者が債務超過の状態にあり、借金を返済できないことを認定することであり(この時点では、まだ返済義務は消滅していません)、免責決定は、裁判所が、返済義務の免除、いわば「返さなくても良い」というお墨付きを与えることを意味しています。

ただし、破産手続の下でどんな状況でも免責が許可されるわけではありません。浪費やギャンブルで過大な債務を背負った場合、信用取引で商品を買い入れて不利益な条件で処分した場合などは、免責されないことになっています(免責不許可事由)。また、子どもの養育費、税金、加害者の悪意に基づく行為や犯罪によって生じた被害者の損害賠償請求権など、債権の種類によっては免責されないものもあります(非免責債権)。

とはいえ、実務上、免責不許可事由に該当するとして免責が認められないことは、ほとんどありません。破産案件は多かれ少なかれ、免責不許可事由が存在するのが通常であり、免責不許可の判断がなされるケースは、浪費とギャンブルを原因とする債務がほぼ100%といった極端なケースだけに限られています。債権者が免責不許可事由の存在を指摘して、免責に対して異議を述べても、免責されているのが現状です。破産開始決定のあった案件の99%以上が免責されていると言われています。損害賠償請求権等についても、非免責債権該当性が未確定であるため、免責決定によって免責されることになります。非免責債権に該当すると主張する者は、別途、裁判を起こし、裁判で非免責債権該当性が認定されれば免責決定にかかわらず債権は復活します。

以前は、免責決定にもかかわらず非免責債権該当性の認定を求めて提訴することは、あまり目立ちませんでしたが、最近はそのような裁判が散見されるように思います。  免責に納得できない債権者の心情は理解できます。しかし、もともと資金繰りに行き詰まり、返済が不可能だからこそ破産という方法を選んだのであり、仮に債権者が勝訴し、当該債権について免責を覆したとしても、早期に破産者の経済状態が好転して債権回収が可能となることは期待できません。このような訴訟は徒に債務者の再起を遅らせるだけです。

債権者からの依頼を受けてこのような裁判を起こす弁護士は、最低限、裁判に勝訴しても、債権を現実に回収することは難しいことを、事前にきちんと説明する責任があるでしょう。