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北海道経済 連載記事

2014年11月号

第56回 「冬の時代」の弁護士報酬

依頼者にとってわかりにくいのが弁護士費用。今回の法律放談は、業界の環境の急速な変化が弁護士費用に与える影響に注目する。(聞き手=本誌編集部)

司法制度改革の結果、弁護士が急増していることはこのコーナーで何度か取り上げてきました。旭川弁護士会に現在所属している弁護士は5年前の約1・5倍です。携帯電話販売やグループホームなど新興の業態ならともかく、昔から存在している分野で、これほど「業者」の数が急増している業界は珍しいのではないでしょうか。

その一方で、弁護士の取り扱う仕事の量、つまり事件数は減少する傾向にあります。旭川地裁における民事事件の数はひところの3分の1。刑事事件も大幅に減っています。弁護士数が増えて、仕事が減っているのですから、単純に計算すれば弁護士一人あたりの収入も大幅に減るはずです。ここ数年は消費者金融会社に対する過払い金返還請求の仕事が弁護士の事務所経営を支えていましたが、この「特需」もすでに下火になっています。なお、離婚や遺産分割を取り扱う家庭裁判所の事件数は増加する傾向にあるのですが、ごく少数の例外的な事案を除けば事件の規模が小さいため、弁護士の事務所経営の観点から見れば、その影響は限定的です。

全国的にみれば、経営難から廃業に追い込まれる弁護士は珍しくありません。それまで民事再生について依頼者にアドバイスしていた弁護士が、経営難のために自らについて民事再生を申し立てたケースもあります。

このような「冬の時代」にあっても、幸い旭川地裁管内で経済的な理由のために廃業した弁護士はまだいません。賃料の安い事務所に移転したり、人件費その他の経費を減らしたり、切り詰めたりして厳しい時代に対応しています。一方、これだけ事件数減少、弁護士の減収が深刻な状況では、事件ごとの弁護士費用が適正な水準に設定されているのか、心配な面もあります。

かつては弁護士費用には日弁連が定めた「標準報酬規程」、いわば公定の料金がありました。2004年にそれが撤廃されてから、弁護士費用をどのように設定するのかは、個々の弁護士の判断に任されています。弁護士費用の設定が、弁護士によって異なりやすい分野として、遺産分割の法定相続分、離婚事件の財産分与等があります。この分野は、当事者間で争いがないことも多く、その場合には、該当金額を比較的容易に確保できます。例えば、遺産分割で法定相続分が1000万円ある人が弁護士に依頼して最終的に1500万円を相続したとします。この場合、法定相続分を超過して獲得した500万円については、一定の報酬割合で成功報酬金を算出するのは正当ですが、特段争いのなかった法定相続分1000万円についても、同じ報酬割合で成功報酬金を算出するのは、いかがなものかと思います。

また、従前の標準報酬規程では、概ね着手金が訴額の5%+9万円、成功報酬金が実際に獲得した金額の10%+18万円でした。既に撤廃されたとはいえ、これを大幅に上回るような弁護士費用の設定には問題があると言わざるを得ません。

これはどんな買物にも共通する話ですが、依頼者の方は事前に弁護士費用の算出根拠について十分な説明を受け、必要に応じて複数の弁護士を比較したうえで、弁護士を選択するのが安全かもしれません。