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北海道経済 連載記事

2014年10月号

第55回 成年後見の信頼揺るがす弁護士の不正

認知症などで判断力が低下した人に代わり、家裁が親族や、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職の中から選任される成年後見人が財産の管理等を行う「成年後見制度」。今回の「法律放談」は、後見人に選任された弁護士の不正行為について。(聞き手=本誌編集部)

近年、弁護士の数は急激に増えているのに、裁判所に係属する事件の数は刑事、民事ともに減少しています。その中で家事事件は増加しており、このため弁護士の業務の中で、家庭裁判所が管轄する、離婚や遺産分割、成年後見等の事件が占める比重が高まっています。

このうち成年後見は高齢化の進む日本社会にとって不可欠な制度ですが、残念なことに後見人による被後見人の財産の着服が相次いでいます。2013年8月に最高裁が発表したデータによれば、前年に発覚した着服は575件、被害額は45億7000万円に達したということです。

着服の大半は、被後見人の親族が後見人に選任された事案で発生しています。このため家庭裁判所が、親族ではなく、第三者の専門職を後見人に選任する傾向が強まっているのですが、社会正義を実現することを使命とするはずの弁護士による着服事件も複数、明るみに出ています。昨年10月には東京弁護士会でかつて副会長を務めた弁護士が、成年後見人として管理していた預金4244万円を無断で引き出し横領したとして業務上横領罪に問われ、懲役5年の一審判決を言い渡されています。他にも岡山県、香川県、静岡県、北九州などで同様の不正が摘発され、弁護士に有罪判決が言い渡されています。認知症の被後見人が被害を察知することは困難であり、他にも不正が行われている可能性があります。

事態を重くみた日本弁護士連合会では昨年5月末に「預かり金等の取り扱いに関する規程」を設け、▽会員は、預かり金および預かり預金を、預かった目的以外に使用してはならない▽弁護士の口座とは別に依頼者の預かり金口座を開設して管理し、帳簿に記録する▽管理に疑いをもたれた弁護士の口座を弁護士会が調査できる権限を有する、等と定めました。このうち目的以外の使用を禁じる文言については、小学生でもわかる当然の道理を日弁連の規程に盛り込むことはいかがなものかといった声もあったようですが、その道理がわかっていない弁護士が実際にいたのですから、信頼回復のためには仕方がありません。

今後もこのような不正が相次ぐようでは、成年後見制度そのものの意義が問われかねず、複数の後見人が相互に監視しあい不正を防ぐしくみを導入すべきといった声が強まりそうです。この他、最高裁判所は一昨年、高額財産を信託銀行が管理し、家庭裁判所の許可がなければ引き出せないようにする制度を導入しています。

今回取り上げた成年後見制度にからむ不正だけでなく、財産管理人として一時的に管理している資産や、示談交渉の過程で預かった金員をめぐる不正で摘発・処分される弁護士もいます。過払い金関連の依頼が大量に舞い込み、弁護士業界が「特需」に沸いていたころと比べて、このような不正が顕著に増加しています。着服した弁護士に同情するわけではありませんが、これらの不正行為の多発は、この業界の厳しい経営環境の現れとも言えるかも知れません。