しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第54回 弁護士業界ではチェーン化進まない?/p>

北海道経済 連載記事

2014年9月号

第54回 弁護士業界ではチェーン化進まない?

効率を追求した結果、経済活動のあらゆる分野で大規模化、チェーン化が進んだ日本。弁護士の世界では小規模な法律事務所が主流だが、この地域でも今後、チェーン化が進む可能性はあるのか……。(聞き手=本誌編集部)

ラジオで債務整理を呼びかける法律事務所のCMを耳にすることがあります。名称に弁護士個人の名前を冠していること、地元の飲食店などのローカルCMに紛れていることから、この法律事務所も道内に本拠を置いているかのような印象を受けますが、実は同じCMが全国のラジオで放送されています。

コンビニ、ファストフード、ファミレス、ドラッグストア……。旭川でも全国展開するブランドを見かけることが増えました。近年では個人住宅を手がける工務店も本州から旭川に進出しているようです。今後、弁護士業界でも同じように全国規模のチェーン化が進むのでしょうか。

過払い金請求など債務整理の分野では、広告を大々的に打ち、全国展開している法律事務所が旭川地裁の管内でも仕事を受任しています。大手の事務所のなかには、チラシなどで事前に告知して相談者を集め、旭川市を含む地方都市で順次に法律相談会を開き、債務整理を受任しているところもあります。電話で相談を受け、弁護士が飛行機で東京から地方都市に赴いて依頼者と空港内でおち合い、面談終了後にそのまま東京にとんぼ帰りするケースもあるということです。

債務整理案件は債務者から一定の情報や書類さえ得られれば、あとは東京で債権者との交渉を進めることができるため、地方に事務所を構える必要がありません。しかし、消滅時効の関係で債務整理案件でも過払金関係の依頼はほとんどなくなり、その他の債務整理案件も今後減っていくと予想されています。大規模な法律事務所は収益が見込める新たな仕事として、交通事故、今後増加が予想される介護施設関連の業務(クレーム対応や訴訟)などに力を入れる傾向にあるようですが、これらの業務で訴訟になれば、最低でも2回(初回期日と尋問期日)、弁護士が法廷まで足を運ぶ必要があること、及び、証拠収集の必要から、地方にしっかりとした拠点を設けなければ受任することは難しいでしょう。

特殊なものとして、薬害肝炎訴訟など専門性の高い訴訟があります。このような訴訟は高度な専門知識が求められるため、誰にでも引き受けられるというものではなく、依頼が大都市圏の少数の弁護士に集中する傾向にあります。

旭川にはすでに大手法律事務所が拠点を構えていますが、費用対効果から考えて、当面、その傾向が広がるとは考えにくいのではないかと思います。もしも、コンビニやドラッグ業界と同様の傾向が強まり、弁護士の一般的な仕事についても、大型法律事務所が大挙して旭川に進出してきたらどうなるでしょうか。

一定の経験や人脈を備えた中堅以上の弁護士なら、現在のような小規模な個人経営のままで、地域社会に根差した活動を続けていくことができるでしょう。一方、まだ地域社会で人脈を広げておらず、経験も浅い若手弁護士たちには大きな影響が及ぶでしょうし、彼らが中堅の域に達するころには、弁護士の世界が様変わりしているかもしれません。