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北海道経済 連載記事

2014年5月号

第50回 「150日説」崩し和解成立

旭川弁護士会では薬害C型肝炎救済法の施行(2008年1月)以来、薬害C型肝炎の被害者支援に取り組んできたが、このほど札幌高裁で和解が成立した。救済の対象を広げる画期的な内容だ。(聞き手=本誌編集部)

札幌高裁で行われていた薬害C型肝炎訴訟の控訴審で3月4日、和解が成立し、原告である慢性肝炎患者の50代男性、Aさんに対して、被告の国から薬害肝炎救済法に基づく給付金が満額支払われることになりました。

旭川弁護士会有志で結成した弁護団が2008年9月に提訴したこの裁判では、2011年3月に旭川地裁の一審判決で原告の請求が棄却されており(同年5月号の本稿で詳報)、今回の和解で救済範囲が広がったことになります。

Aさんについては30年前に大動脈瘤で手術を受けた際、血液製剤のフィブリノゲンを投与されたことを示すカルテが残っていましたが、救済を妨げる3つの要因がありました。まず、血液製剤の投与量が1バイアル(ビン1個分)と少量でした。第2に、Aさんは前後2回の手術で合計100単位の大量輸血を受けていました。輸血の量が多ければ多いほど、血液製剤ではなく、輸血が原因でC型肝炎ウイルスに感染した可能性が高まります。50単位を超える輸血があった場合、国は血液製剤が原因ではないとの主張をして因果関係を争います。第3に、Aさんがフィブリノゲンを投与されてからC型肝炎を発症するまでに150日以上が経過していましたが、これまでの薬害C型肝炎訴訟では投与から150日以内に発症するとの説を採用していた感がありました。

旭川地裁が言い渡した一審判決は、感染原因として血液製剤と輸血のどちらがあり得るかを検討し、「150日説」に基づいて輸血によると考えるのが合理的として、原告の請求を棄却しました。血液製剤と大量輸血が併用されたケースについては、血液製剤の投与が肝炎ウイルス感染の原因であることと矛盾すると考えられる「特段の事情」がないかぎり、両者の因果関係を認めるとの大阪地裁の所見が他の裁判でも基準とされていますが、旭川地裁はAさんの潜伏期間の長さが「特段の事情」に当たると判断したわけです。

控訴審では、2013年7月に札幌高裁が、感染原因が血液製剤なのか輸血なのかはっきりしないことから「50%の割合」で血液製剤と輸血の両方について感染との因果関係を認めるとの内容の所見を示して和解を勧告しましたが、被告の国は和解を拒否しました(同年11月号で詳報)。

その後、原告側は「150日を過ぎて発症することもあり得る」旨の意見書を医師から得ることに成功し、これにより一審で国が行った主張の根拠が崩れ、札幌高裁は大動脈瘤の手術で投与された血液製剤が感染原因と認められるとの所見を示し和解を勧告。国はこれを受け入れました。この和解の結果、今後は大量の輸血が行われていても、潜伏期間が150日以上でも、血液製剤を投与された事実がカルテや医師等の証言で証明できれば、救済の対象になる可能性が高まりました。

現在、旭川地方裁判所では、2名の薬害C型肝炎患者の案件が係属中であり、国に対して給付金支払を求めています。なお、薬害肝炎救済法は時限立法で、2018年1月までに提訴しなければ救済の対象とはなりません。薬害肝炎に苦しんでいる人は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。