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北海道経済 連載記事

2014年4月号

第49回 四国4県よりも広い守備範囲

稚内から占冠。直線距離にして275㌔という広大なエリアをカバーするのが旭川弁護士会。今回は、人口密集地の弁護士にはないこの地域ならではの苦労について。(聞き手=北海道経済編集部)

旭川弁護士会が所轄するのは、北は稚内から南は占冠まで、東は紋別から西は留萌までという広大なエリアです。その面積は約2万2000平方㌔㍍で、四国4県に長崎県を加えた面積とほぼ同じです。ちなみに全国最大は釧路・根室・十勝・網走・北見をカバーする釧路弁護士会で旭川弁護士会はこれに次ぎます。

旭川に事務所を構える弁護士が刑事事件の被疑者に接見するために稚内まで出張すると、それだけで一日仕事となります。大まかに言えば、朝10時にJRの特急で旭川を出発。午後1時半に到着して2時から接見。夕方には帰りの列車に乗り、夜10時ごろに旭川に到着するスケジュールです。往復約7時間を列車の中で過ごすことになり、決して効率がいいとは言えませんが、弁護士の社会的な役割を考えれば、避けては通れません。もっとも、稚内や紋別、留萌などに、日弁連のひまわり基金の支援を受けた法律事務所などが相次いで設立されたことから、旭川から地裁支部地域への出張の機会は以前よりも減っています。

1975年の時点で、旭川弁護士会が所轄する地域の人口は95万人でした。それが現在は71万人と、約24万人減っています。旭川市の人口は、ほぼ横ばいですから、ほかの市町村で過疎化が進んだことがわかります。ちなみに、旭川弁護士会管轄地域の人口密度は32人/平方㌔㍍。日本全国の平均人口密度は343人/平方㌔㍍ですから、その10分の1以下です。旭川市以外の地域の人口密度は17人/平方㌔㍍程度となり、全国平均の20分の1となります。弁護士を必要とする人が広い地域に散らばっている以上、弁護士の移動距離が伸びるのは必然かもしれません。

道北地域の弁護士業務の特色として、しばしば車を長距離運転しなければならないことが挙げられます。地裁支部の期日がJRのダイヤと合わない場合、天塩、枝幸、紋別などJRでのアクセスが不可能な地域の場合には、弁護士が自らハンドルを握って目的地に向かい、業務終了後に帰ってこなければなりません。夏はまだいいのですが、冬に音威子府・天塩中川間の峠を越えるとき、オロロンラインの猛烈な吹雪の中を走行するときには緊張を強いられます。弁護士仲間から「凍結路面でスリップして危ない目に遭った」といった体験談を聞かされることもしばしばあります。

道北地域の人口密度の低さは弁護士の経営環境にも影響します。地裁支部があるのに、弁護士が0ないし1人しかいない地域は「ゼロワン地域」と呼ばれて、かつて問題視されていましたが、弁護士の増加でほとんどが解消しました。一時期、道北の小規模自治体で法律事務所設立を目指す動きもあったようですが、採算性が極めて厳しいとみられることから実現には至っていません。今後も小規模自治体で法律事務所を新規に設立するのは困難でしょう。

近年は自己破産や過払い金返還請求などの債務整理業務が弁護士ニーズを下支えしていましたが、これが減少すれば、特に地裁支部地域では弁護士の経営環境は厳しくなると予想されます。都市部と地方の法的なサービス水準の格差が拡大することを防ぐためにも、新たな対策が必要になると思います。