しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第48回 弁護士から裁判官への転職

北海道経済 連載記事

2014年3月号

第48回 弁護士から裁判官への転職

いわゆる「ヤメ判」とは、裁判官(判事)から転職して弁護士になった人。それとは逆に、弁護士から裁判官になる人も少数ながらいる。今回の「法律放談」は「弁護士任官」のしくみについて。(聞き手=北海道経済編集部)

司法試験に合格した司法修習生が、弁護士、裁判官、検察官のうちどの道に進むのかは、本人の希望や司法修習の成績、人格などにもとづいて修習期間中に決まります。長い間、裁判官になるためにはこれが唯一のルートでした(簡易裁判所や最高裁判所はまた別のしくみです)。裁判官をやめて弁護士になる人はいても、その逆の道は閉ざされていたわけです。

日本とは対照的に、アメリカやイギリスでは裁判官を弁護士等で裁判官とは別の法曹経験を一定期間積んだ者から任用する「法曹一元制」を採用しています。昨年からは韓国でも法曹一元制が導入されました。

日本のような制度では、裁判官の経歴が画一化し、法律の条文や判例だけにとらわれ、社会常識や庶民感情を軽視して判決を言い渡すおそれがあります。このため日本でも1992年から弁護士から裁判官への登用に道を開く「弁護士任官制度」が導入されています。ところが、実際に任官した人の数は2011年までで98人。平均すれば年5人弱の狭き門です。

その理由はまず、非常に厳しい選考の過程にあります。弁護士任官を希望する人は、まず所属する弁護士会や、地域ごとの弁護士連合会の推薦を受ける必要がありますが、仲間の弁護士から高い評価を得ている人でなければ、当然推薦は行われません。推薦を得た人についても、それまでの弁護士としての活動や人格に問題がないか、綿密な調査が行われます。過去の事件の依頼者や、所属した法律事務所にも問い合わせが来ます。その後、最高裁の局長クラスによる面接に進み、最終的には任官するのは推薦を受けた人の約半分です。

弁護士は常に複数の事件を抱えているものですが、任官が決定した時点ですべての事件をほかの弁護士に引き継がなければなりません。これも、弁護士任官が低迷している理由のひとつです。職務上、弁護士は裁判官と頻繁に接触していますが、個人的に交流する機会は乏しく、弁護士から裁判官の世界がよく見えないことも、弁護士任官の妨げになっています。

さて、私も「キャリア」の裁判官の判断と社会通念のかい離は問題だと感じています。例えば、法律の世界には「物損には慰謝料が発生しない」という原則があり、ペットは「物」として扱われるため、ペットが事故で死んでも、加害者に対して慰謝料の支払いを命じる判決が言い渡されることは、ほとんどありません。しかし、ペットが飼い主の精神的な支えになっている社会状況を考えれば、この原則は修正されるべきでしょう。弁護士任官が拡大すれば、多様な人材が裁判に加わり、法的な判断に社会通念が反映される余地も広がるのではないかと思います。

弁護士任官された裁判官は、地方裁判所や高等裁判所に裁判官として勤務することになります。ちなみに、現在の旭川地方・家庭裁判所長である渡辺康氏は検察官から弁護士に転じ、さらに弁護士任官で裁判官になった異例の経歴の持ち主です。

なお、以前は裁判官や検察官から弁護士に転じる人がよくいましたが、司法改革後の弁護士急増と経営環境の変化を受け、そのようなケースは大幅に減少しています。