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北海道経済 連載記事

2014年2月号

第47回 薄れる裁判員制度への関心

4年半前の導入時には大々的に報道され、注目を集めた裁判員制度。最近では話題にのぼることも減ったが、小林史人弁護士は、この制度に対する市民の関心が薄れてきたと感じている。(聞き手=北海道経済編集部)

先日行われた裁判員裁判で、被告人の弁護人を務めました。私が被告人の弁護人として裁判員裁判に参加するのは、これが3回目となります。

裁判員法によれば、禁固以上の刑に処せられたことがある人や事件の関係者などの例外を除けば、20歳以上の人すべてが裁判員に選ばれる可能性があります。毎年「裁判員候補者名簿」が、管内の市町村の有権者名簿から作成され、事件ごとにこの名簿からランダムに選ばれる裁判員候補者が、書面で裁判所に呼び出されます。このなかから6人が実際に裁判員に選ばれ(ほかにいわば補欠としての「補充裁判員」が1人)、プロの裁判官とともに審理を行い、判決を下します。

さて、今回の裁判では裁判所から100名程度に呼び出し状が送られたと思われますが、このうち選任手続のために裁判所まで足を運んだのは約3割でした。呼び出し状に添付された質問票に行かない旨を書いて返送してくるのはまだいい方で、相当数は何ら反応せず無視しています。

これは、裁判員制度に対する市民の関心が薄れてきていることの表れではないかと思います。制度導入当初は、裁判員の選任手続きに呼ばれれば応じるのが義務と広く受け止められており、呼び出された人の7~8割は選任手続のために裁判所まで来ていました。その比率がいまや約3割まで低下しているわけです。これは、旭川だけではなく全国的な傾向のようです。

制度の導入時には、「仕事が忙しい」という理由だけでは辞退できない建前になっていたはずですが、実際には「多忙であること」「体調が良くないこと」「家から裁判所まで遠いこと」を述べさえすれば、すんなりと辞退が認められています。これも、裁判員制度が軽視されるようになった一因ではないかと思います。

意識の低下が審理の質にも影響を与えているかというと、むしろ逆だと思われます。裁判所からの書面にきちんと返信し、裁判員を務めるのは義務だと認識して呼び出しにも応じるまじめな人が裁判員を務めているわけですから、審理にも真剣に臨んでいるはずです。しかし、国民が広く刑事裁判に参加することにより、裁判を身近で分かりやすいものとし、司法に対する国民信頼を高めるという当初の目的からはズレてしまっています。

裁判員裁判は初日の午前中に裁判員選任手続を行い、午後から審理が始まり、翌日も朝から夕方まで審理、3日目に裁判官と裁判員による評議が行われ、夕方に判決が言い渡されるというのが基本的な流れです。限られた時間のなかで審理を終わらせるため、証拠はことごとく「圧縮」されます。供述調書も精神鑑定書も、法廷で証拠として採用されるのは結論など重要な部分だけです。削られる部分のなかには、情状酌量につながる微妙なニュアンスが含まれているかもしれません。

「裁判員の負担軽減」という美名のもとに、審理時間を短縮するため、証拠を圧縮し、大急ぎで裁判が行われていますが、十分な審理が行われているのかどうか疑問です。証拠の重要部分だけでは少なくとも「充実した」審理にはならないと思います。

2009年5月に裁判員制度が導入されてから4年半が経過したいま、この制度が当初の目的を達成したのか、公正な裁判を阻害していないかどうか、検証する必要があると思います。