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北海道経済 連載記事

2014年1月号

第46回 欠陥だらけの秘密保護法

旭川弁護士会は12月3日、「特定秘密の保護に関する法律案」(秘密保護法案)が衆議院で強行採決されたことに抗議する会長声明を出した。11月18日にもこの法案に反対する会長声明を出したばかり。今回の「法律放談」では、小林史人弁護士が法案に関するいくつかの問題点を指摘する。(聞き手=北海道経済編集部)

秘密保護法案には▽我が国の安全保障のために特に秘匿する必要があるものを行政機関が「特定秘密」に指定する▽秘密を扱う人、その周辺の人々を政府が調査・管理する「適性評価制度」を導入する▽特定秘密を漏らした人、知ろうとした人を厳しく処罰する、といった内容が含まれています。

特定秘密の範囲は極めて曖昧です。大別すると「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」に関する情報が該当するとされていますが、具体的にどのような情報が指定されるのか、現時点ではほとんどわからず、国会での担当閣僚の答弁も二転三転しています。

特定秘密を漏らした人、不正に特定秘密を取得した人に対しては5~10年を上限とする懲役が科されます。実行した場合はもちろんのこと、未遂や共謀も処罰の対象です。

さて、国民に刑罰を科して処罰する場合には、国会が定める法律に、いかなる行為が犯罪として処罰されるのかをあらかじめ明記しておかなければならないという大原則があります(罪刑法定主義)。何が犯罪かが明確でなければ、国民の自由を侵害するおそれがあるためです。ところが、秘密保護法案の定める特定秘密の基準は曖昧かつ包括的であり、将来、行政機関によって基準が無制限に拡大されるおそれがあります。これは罪刑法定主義の原則から大きく逸脱するものです。

また、共謀の段階から処罰されることも問題です。共謀とは何らかの犯罪行為を計画することであり、犯罪の実行に着手することを意味している「未遂」よりも早い段階です。より広範囲な犯罪の共謀を防ぐための「組織犯罪処罰法案」は03年に国会に提出されましたが、処罰範囲の著しい拡大への懸念が高まり、09年には廃案となっています。それだけ共謀の処罰に対する慎重論が根強いということでしょう。

秘密保護法案が制定された結果、特定秘密の指定に関して、行政機関が国会に優越し、国会議員は行政機関による統制を甘受することになります。国会議員が自らの国政調査権等の権能を弱める法律を制定するというのもおかしな話です(「一票の格差」をめぐる裁判で近年の国政選挙が違憲無効とされており、いわばレッドカードをもらった国会議員が退場しないで秘密保護法を制定することも変な話ですが)。

さて、秘密保護法案とその強行採決については、日本弁護士連合会、北海道、関東など全国8ブロックの弁護士会連合会、全国の52弁護士会がそろって反対声明を出しています。自民党の国会議員の中にも谷垣禎一法相をはじめ、弁護士資格を有している人はおり、法律の専門家であるはずの彼らがなぜこのような欠陥だらけの法案に異を唱えないのか理解できません。

秘密保護法案が成立してしまった以上、同法が適用された具体的事例において、「秘密保護法は憲法違反である」と主張し、これを最高裁判所に認めてもらうという長くて遠い厳しい道のりで争うしかありません。その間の言論の自由、報道の自由に対する委縮効果は計り知れません。また、集団的自衛権行使容認、国防軍の創設、改憲へと加速する危惧があります。