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北海道経済 連載記事

2013年12月号

第45回 損害賠償の遅延損害金

携帯電話や電力などの公共料金を期日に支払わなければ、一定の金利を上乗せして請求されることがある。これと同じように、不法行為を理由とする損賠賠償については、損害が発生した日から年率5%の割合で「遅延損害金」が発生する。今回の「法律放談」は、この遅延損害金の現状について。(聞き手=北海道経済編集部)

遅延損害金について、交通事故で被害者(原告)に身体障がいが残り、裁判で1000万円を支払うよう加害者(被告)に命じる判決が下された場合を例に説明します。この場合、加害者は交通事故の日(損害が発生した日)から計算して年率5%の遅延損害金を上乗せして支払わなければなりません。事故日から1年が経過していれば50万円、2年が経過していれば100万円です。被害者が死亡したり、被害者に深刻な障がいが残ったりすれば賠償額は高額化しますし、事故状況が複雑であれば裁判は長期化しますから、遅延損害金が膨らむことになります。

奇妙なのは、遅延損害金が民法に明記されている権利であるにも関わらず、被害者の弁護士の中には、その意識が薄く、和解の際に、あっさりこれを放棄したり、大幅な削減に応じてしまう人がいるということです。遅延損害金がいつから発生するかについても、事故日ではなく、訴状送達の日から計算を始め、金額が少なくなっているケースも見受けられます。

被害者が権利として認められている遅延損害金を全額請求しなければ、被害者の権益が不当に損なわれることになります。一部の弁護士は別の事案で加害者(実質的には損害保険会社)の代理人として出廷することもあるために、加害者側の利益に配慮しているのかもしれませんが、別の裁判であればそのような配慮は不要ですし、被害者の利益となる主張を展開しないのは不適切で、大問題です。

ただ、交通事故にまつわる裁判の多くは判決に至らず、裁判所からの勧告に基づき、途中で和解するケースが大半です。この場合、遅延損害金は、理由もなく大幅に削減されたり、計上されなかったりします。

裁判を最後まで戦ったとしても、被害者にとって有利な判決が下されるかどうかわからない状況では、被害者が確実に一定額のお金を得ることのできる和解を(たとえ遅延損害金が支払われないとしても)選んだ方が得策になるかもしれません。他方、加害者に一方的に落ち度がある場合等、被害者にとって有利な判決が下されるのが確実な状況では、和解を拒否して損害賠償プラス遅延損害金の支払いが命じられる判決を選んだ方が、被害者にとって得られる金額が大きくなり、この観点からは被害者に有利です。

なお、損保会社にとってもこの遅延損害金は重いコストとなるため、加害者の責任について反論の余地がない部分については速やかに認めて相応の損害賠償を払い、一部だけ被害者側と裁判で争うことで遅延損害金を最小限に抑えようとすることもあるようです。

交通事故の損害賠償金額は、事故状況・損害状況や過失割合によって左右される、いわば不安定な数字です。一方、遅延損害金は「5%」とはっきりと比率が決まっているため、確実に得られるお金です。加えて、物価がほとんど上がらず、預金に利子がほとんどつかない昨今、「5%」が加わるかどうかで被害者の権益は大きく変わります。遅延損害金をきっちり請求して回収する弁護士を選ぶべきでしょう。