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北海道経済 連載記事

2013年11月号

第44回 「50%」の因果関係とは?

本年7月、薬害C型肝炎に関する裁判で札幌高裁が所見を示して和解勧告したが、本年9月、国は和解を拒否した。今回の「法律放談」は、所見で示された「50%」の因果関係という異例の考え方について。(聞き手=北海道経済編集部)

この裁判では、富良野市に住む50歳代の男性が、肝炎ウィルスに汚染された血液製剤を投与されたとして、薬害肝炎救済法に基づき給付金2000万円の支払いを求めています。旭川弁護士会では「薬害C型肝炎患者救済に関する旭川弁護団」を組織し、血液製剤による薬害でC型肝炎に感染した疑いのある人たちを支援していますが、この男性のケースでは血液製剤と肝炎感染との間の因果関係の立証が極めて困難でした。現在も残っているカルテから、血液製剤の投与量が少なく、投与されてから発症するまでの期間が比較的長く、さらに血液薬剤と並ぶ感染経路である輸血の量が多いことが判明しているためです。昨年3月、旭川地裁は一審判決で、血液製剤が感染の理由とは認められない「特段の事情」があるとの判断を示し、原告の訴えを退けました。

原告が控訴し、これまで札幌高裁で審理が続けられてきましたが、本年7月、札幌高裁が所見を示して和解を勧告しました。所見の内容は、輸血も血液製剤も投与されていて、どちらが感染経路なのかはっきりしない場合は「50%の割合」で血液製剤が感染原因だと認める、というものです。

薬害C型肝炎の被害者救済制度では、①製剤投与、②C型肝炎に罹患③①と②との間の因果関係を裁判所での判決・和解・調停で認定された人が、医薬品医療機器総合機構から症状に応じて一定額の給付金を支給されることになっています。所見は給付金の額には触れていませんが、「50%の割合」で因果関係が認められるとの内容で和解が成立すれば、給付金も50%に減額されて支給されると考えるのが常識的でしょう。弁護団としては満額給付を求めていますが、救済法の立法趣旨に沿って救済の範囲を広げたという意味で、札幌高裁の示した所見は画期的であり、和解が成立すれば全国の薬害C型肝炎訴訟にも広く影響を及ぼす可能性がありました。

しかし、国は本年9月19日の期日で、8割程度の確からしさが必要とされる通常の因果関係の立証を求める姿勢を崩さず、和解を拒否しました。国と薬害肝炎全国弁護団との間で、裁判所が所見を示して和解を勧告した場合は、これを受け入れるとの合意があり、これまではこの合意守られてきたため、薬害肝炎訴訟で裁判所の和解勧告を国が蹴ったのは、本件が全国で初めてです。

国が和解案を蹴った背景には、因果関係をめぐる考え方の相違があります。常識的に考えれば因果関係は「ある」か「ない」かのどちらかで、「50%の割合」で結果を招いた、という論理は成り立ちません。その意味で、本件で札幌高裁の示した所見は異例です。

ただ、これは全く新しい概念ではなく、昭和40年代には「割合的因果関係論」という学説が主張され、地裁レベルでは、この学説に基づく判決が下されたこともあります。和解は当事者双方の妥協点を模索するのが目的なので、たとえ非論理的な和解案であっても当事者双方がそれで良いと言えば成立します(判決の場合は論理性を無視できず、論理的に破たんした判決には不服申立されます)。

和解協議は今後も続きます。弁護団としては今後、追加立証して、男性の救済につながる和解や判決を勝ち取りたいと考えていますが、これまで用意できなかった証拠を用意することは困難であり、厳しい道のりです。