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北海道経済 連載記事

2013年10月号

第43回 新人弁護士の受け入れ困難に

長年の浪人生活もいとわず猛勉強して弁護士になったのは昔の話。いまでは高額な学費を納めて法科大学院に通わなければならず、司法試験に合格できても弁護士の仕事があるとは限らない。今回は弁護士の増加が就職戦線にもたらした、ある変化について。(聞き手=北海道経済編集部)

新しい法曹養成制度になってからは毎年12月半ばになると、司法修習を終えた新人弁護士がこの地域の法律事務所に就職し、旭川弁護士会にフレッシュな顔ぶれが加わります。以前このコーナーでも取り上げた通り、昔(と言っても10数年前ですが)は、数年に1人という緩慢なペースでしたが、新制度の下で司法試験に合格する人が大幅に増えた結果、近年は毎年10%会員が増加するというハイペースになっています。ところが、今年は状況が変わっており、今のところ、新人弁護士が旭川弁護士会管内で就職するという話を聞いていません。

これは、弁護士の需要と供給のバランスが新しい段階に達したことを示しています。長年、旭川弁護士会に登録する弁護士は、自身が旭川出身、または旭川出身者と結婚した、親戚が旭川近辺に住んでいるなど、この地域と何らかの縁がある人がほとんどでした。近年は実務修習で旭川地裁に配属されたことを契機に旭川弁護士会に登録する等、地縁が薄い弁護士も増えていますが、これは東京や札幌での就職が難しくなったことの裏返しとも言えます。日本の最北端に位置する道北地区の法律事務所は、就職先としては人気がなく、言わば「最終手段」であったのに、その道北でも、いよいよ新人弁護士を受け入れることが難しくなっています。

このような弁護士の就職戦線の状況が、弁護士の仕事の基本的な性格にも影響を及ぼしています。

昔なら司法試験合格まで苦労することはあっても、いったん弁護士になれば仕事に困ることはなく、仕事にやりがいも感じることも多かったように思います。学費も現在ほどにはかからず、奨学金などを活用していても、弁護士登録後は収入が安定するので、将来返済できるという見通しが立ったものです。いまではロースクールに通うのに多額の学費が必要で、卒業しても司法試験に合格できるとは限らず、合格しても就職は難しく、就職したとしても仕事が十分に確保できるとは限りません。「これからは生活費を自ら稼ぐ必要のない金持ちの子息がボランティアで弁護士になるしかない」と嘆く声さえ聞こえてきます。

幸い、旭川弁護士会に登録した弁護士のなかに経済的理由で登録を解除した人はいませんが、他の地域ではそのような事例が発生しています。旭川でもまだ経済的な基盤が確立していない若手に仕事を振り分ける等の支援が必要になっていますが、中堅やベテラン弁護士の状況も厳しく(事件数が10数年前の半分になり、弁護士数が2倍になれば、弁護士の手持ち事件は10数年前の1/4になる)、どこまで支援ができるかは難しいところです。

驚いたことに、弁護士を目指す人のうち、経済的な余裕がある人の間では現在の法曹養成制度を肯定的に評価する向きもあるようです。優秀なのに経済的な事情で弁護士への道を断念する人が増えれば、経済的に豊かな自分たちが弁護士になれる可能性が高まるということが理由のようです。どんな問題についても賛否両論があってしかるべきですが、金銭的な余裕のない人が弁護士になることを断念せざるを得ない現在の制度が今後も維持されれば、弁護士の質が徐々に低下していくのは避けられません。