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北海道経済 連載記事

2013年9月号

第42回 「名誉毀損」とは?

日常の会話のなかで「名誉を傷つけられた」「名誉毀損で訴えてやる」といった言葉が、その深い意味を考えずに軽々しく使われることがある。インターネットの普及で、最近ではネット上の言動をめぐるトラブルも増えている。今回の「法律放談」では、名誉毀損をめぐる裁判の実情を考える。(聞き手=北海道経済編集部)

一口に「名誉毀損」と言っても、刑法と民法に規定があり、その意味が微妙に異なるので注意が必要です。

まず刑法上の「名誉毀損罪」について説明しましょう。刑法は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」(刑法230条1項)と定めています。「公然と」つまり不特定または多数の人に対してという条件はついていますが、少数の人の間の会話でも、そこから話が不特定多数に広がっていく可能性が予見される場合には、名誉毀損罪が成立することになります。

適時された事実が真実か虚偽であるかは問われませんが、言論の自由の観点から、公共性、公益性のある事項については、真実性が証明されれば免責されます(刑法230条の2)。また、死者が名誉を毀損された場合には、その事実が客観的にみて虚偽でなければ処罰されません(刑法230条2項)。

なお、「馬鹿」だの「阿呆」だのと「事実を示さずに他人を侮辱する行為については、別に「侮辱罪」に関する条文があります(刑法231条)。

さて、この名誉毀損罪の件数は決して多くありません。2011年の被疑事件は全国で578件。このうち起訴されたのは3割弱の163件でした。従って、一般的に「名誉毀損で訴える」と言えば、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求を指すことになります。

民法709条によれば、他人の権利ないし利益を違法に侵害する行為(不法行為)を行った者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負わなければならないのですが、名誉の侵害はこの不法行為のひとつです(民法710条)。なお、民法上の名誉毀損では刑法のように公然性を条件としていないので、適用の範囲がやや広くなります。

民法上の損害賠償は金銭で行うのが原則ですが、毀損された名誉を回復する方法として、民法は「裁判所が損害賠償その他の方法を命令できる」(民法723条)と定めており、裁判ではこれを根拠に謝罪広告の掲載などを加害者に命令することがあります。

なお、刑法上の名誉毀損罪と同様、民法上の名誉毀損についても、表現の自由への配慮から、公共性や公益性があり、表現された事実が真実であれば成立しません。

実際の裁判では、原告側が精神的な苦痛を理由に数百万円、時には数千万円といった多額の賠償を請求することがありますが、有名人が大手のマスコミの大々的な誤報で名誉を傷つけられたといった特殊なケースを除けば、裁判で支払いが命じられる賠償額はせいぜい数十万円、多くても100万円といったところでしょう。

離婚裁判の慰謝料と同様、裁判所は財産上の損失額と比較して算出の難しい精神上の損失額を少なく評価する傾向があります。名誉毀損をめぐる裁判で原告が勝訴したとしても、具体的な賠償額が裁判費用を下回る可能性さえあります。