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北海道経済 連載記事

2013年8月号

第41回 残業手当をめぐる対立

残業手当の支払い義務が使用者にあることは法律に明記されているが、地域の中小企業ではその余裕がないところも多く、それだけに残業手当をめぐる紛争が生じる可能性が大きい。今回の「法律放談」では、この残業手当を取り上げる。(聞き手=北海道経済編集部)

最近、全国規模でチェーン展開している法律事務所の「未払いの残業手当が戻ってきます」といった宣伝を目にする機会が増えています。消費者金融の過払い金訴訟が時効の関係で一段落しようとしている今、残業手当をめぐる労働争議が弁護士の「有望」な業務分野として注目を集めているのかもしれません。

労働基準法は法定労働時間を超える労働に残業手当を支払うよう定めており、さらに深夜・休日の労働には割増率が加算されます。一方で地方の中小企業のなかには割増賃金を支払う体力がないところが多いのも実情であり、残業手当をめぐって使用者と労働者が対立しやすい状況が生じているともいえます。しかし、少なくとも旭川地裁管内では、残業手当だけをめぐる単純な対立というよりも、解雇されたことに反発した人が、対抗措置として未払いの残業手当の支払いを求めるという構図がほとんどです。

労働争議全般を解決するために、地方裁判所には「労働審判手続」という仕組みが用意されています。この手続きの下では労働審判官1人(裁判官)と労働審判員2人(使用者側、労働者側各1人)が、事案の当事者である労働者、使用者の双方(およびその代理人=弁護士)から主張を聞き、必要に応じて証拠調べを行います。話し合いによる解決が見込めるなら調停を行い、それが困難ならトラブルの内容に応じた解決案を提示します。

審理は3回までとなっているため、比較的迅速な解決が見込めるのが特徴ですが、提示された解決案に法的な拘束力はなく、どちらかが拒否すれば訴訟手続に移行することになります。訴訟手続では、労働審判手続でどのような判断が示されたかも重視されます。

残業手当をめぐる労働審判や訴訟手続で問題になるのは、勤務時間を示す証拠の有無です。タイムカードが残っていればいいのですが、適切な勤務時間の管理が行われていなかったり、勤務形態の関係で始業と終業の時刻が明確でなかったりする場合もあります。そのようなケースでは、帰宅前に家族に送ったメールや、顧客とのやりとりといった間接的な証拠をもとに、時効である2年前まで遡って、1日ずつ、労働者1人ずつについて裁判で勤務時間を確認することになります。この煩雑な作業のために、残業手当をめぐる訴訟は長期化しがちです。

大都市圏はともかく、旭川地裁管内で、残業手当をめぐる事件はそれほど多くありません。会社側に支払能力がないため、労働審判や訴訟手続をとっても回収が見込めず、断念せざるを得ないという実情、訴訟が長期化するわりには、労働者側が勝訴したとしても、それほど多額の残業手当を獲得できないという実情が影響しているのかもしれません。