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北海道経済 連載記事

2013年7月号

第40回 司法試験への「近道」、予備試験

「一発勝負」「長年の浪人生活」などの弊害が指摘され、大幅に改革された司法試験。全国に法科大学院が誕生したが、別のルートから司法試験を受験する人が増え続けている。今回の法律放談は「司法試験予備試験」について。(聞き手=北海道経済編集部)

法曹(裁判官、検察官、弁護士)になるには、司法試験に合格しなければなりません。司法制度改革の一環として法曹養成制度も大きく変わり、現在は法科大学院(ロースクール)を卒業して司法試験の受験資格を得るのが一般的なルートです。

最近注目を集めているのが、もう一つのルートとも言える「司法試験予備試験」です(以下、予備試験)。2011年から実施されているこの試験に合格すれば、法科大学院に通わなくても司法試験の受験資格を得ることができます。実施初年度の受験者は6477人で、このうち司法試験受験資格を得た人の比率は1・78%。翌12年はそれぞれ7183人、2・40%でした。今年の受験者は9224人に達しました。

一方、法科大学院の志願者は減り続けており、地方の法科大学院の中には経営の悪化を理由に学生募集を停止するところや、他の大学の法科大学院と統合するところも現れています。法科大学院の人気低迷は、合格率の低迷が主な理由です。東大、中央大学といった有力な法科大学院では受験者の4~5割が合格しますが、その一方で合格率が5%以下に低迷しているところも少なくありません。私学の法科大学院の授業料は年間数十万~百数十万円。ほかに入学料など様々な名目でお金がかかります。入学から卒業まで3年間(法学部出身者は2年コースを選択することもできる)の時間が必要で、しかも司法試験の受験のチャンスは法科大学院卒業後5年間で3回までに制限されています。これらの要素を考えれば、優秀な司法試験受験生にとっては金と時間がかかるという意味で、法科大学院は、決して有望な選択肢ではないと言えます。

この点、予備試験は魅力的です。学歴や年齢などについて制限はありませんから、誰でも受験でき、合格すれば司法試験を受験することができます。もちろん、予備試験を選択しても金と時間をかけて準備する必要はありますが、予備試験の受験に必要なのは手数料1万7500円だけです。また、準備に時間がかかると言っても、優秀な受験生であるならば、3年もかかりません。

予備試験はもともと、経済的理由で法科大学院に行けない人にも法曹への道を用意するために整備されたしくみですが、このような状況から最近では「近道」として注目を集めています。また、予備試験経由で司法試験を受験する人のほうが、法科大学院に行った人よりも優秀であることを示すデータもあります。一昨年の予備試験合格者、116人のうち実際に司法試験を受けた人は85人。このうち合格者の比率は68・2%でした。これは全体の合格率25・1%はもちろん、東大の51・2%、一橋大の57・0%も上回っています。優秀な受験生は、法科大学院ではなく予備試験を選択する傾向にあります。受験生としては「予備試験さえ通れば司法試験は何とかなる」という感覚なのではないでしょうか。

予備試験は、試験の内容や合格率が1~2%の難関であるなどの点で改革前の旧司法試験の内容によく似ています。今後、法科大学院が撤廃されることはないでしょうが、志願者減少で統廃合が進むことは避けられず、昔と同じような受験勉強を経て法曹となる人材の比率は上昇すると予想されます。