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北海道経済 連載記事

2013年5月号

第38回 弁護士のチームワーク

通常、弁護士は独立して活動しているが、薬害C型肝炎訴訟など、専門性が高い上に、当事者の数も多い裁判では弁護団を結成し、「チームプレー」で裁判に臨むことがある。今回の法律放談はこの弁護団について考える。(聞き手=北海道経済編集部)

通常の刑事裁判、民事裁判では、当事者1名につき、弁護士は1~2名であることがほとんどですが、「弁護団」が結成され、複数の弁護士が「チームプレー」で裁判に臨むことがあります。この1月末には「薬害C型肝炎患者救済に関する旭川弁護団」が支援した原告(患者)に有利な内容の和解が、被告である国との間で成立しました。(現在、別に1件が札幌高裁で係争中。ほかの患者についても旭川地裁に提訴する可能性があります。)

この弁護団が結成されたのは2008年のことです。同年1月に薬害C型肝炎患者救済法が成立し、旭川地裁管内でも被害者から弁護士会や裁判所、個々の弁護士事務所等に問い合わせが殺到したことから、旭川弁護士会としても何らかの対応が必要であると判断して、弁護士12人を集めて弁護団を結成しました(現在は14人)。弁護団は弁護士3人ずつ、4つの班に分かれ、提訴が可能なものについて、起案(文書作成)、当事者との接触、証拠収集、裁判所での弁論期日や弁論準備期日での進行対応といった作業を分担して行いました。

弁護団を結成して裁判に臨むことには大きく分けて二つのメリットがあります。まず、薬害訴訟のように専門性が高く、当事者も多数の場合、個別に訴訟を起こすよりも、弁護団を設置して統一方針の下で行動したほうが効率的です。借家の敷金返済をめぐる訴訟のように、1件ごとの金額が少ない場合には、個々の原告がそれぞれ弁護士から支援を受ければ、勝訴しても弁護士費用のほうが高くつくでしょう。

もう一つ、「格」の問題があります。法律上、弁護士の数は裁判官の判断に影響しないはずですが、多くの弁護士が弁護団に参加している問題なら、それだけ社会の注目度も高いというメッセージは伝わり、裁判官としても軽視するわけにはいかないでしょう。

デメリットもあります。弁護団は参加する弁護士の意思を統一するのが大変で、弁護士が1人なら簡単に決められることを、いちいち会議を開いて決めなければなりません。旭川の弁護団は小規模ですが、数十人の弁護士が参加する大都市や全国規模の弁護団は足並みを揃えるのも容易なことではないでしょう。

C型肝炎が典型例であるように、弁護団が設置されるのは、社会的な弱者への支援が必要な案件がほとんどです。専門性が高い上に、当事者が多数であることから、弁護団の活動も長期化する傾向にあります(薬害C型肝炎救済法はもともと5年間の時限立法でしたが、法改正で5年間延長されたことから少なくとも2018年までは弁護団の活動が続きそうです)。弁護士の人数に見合った報酬は得られず、公益的な意味合いの強い活動です。

なお、東京の大手法律事務所では企業間の紛争や国際的な事案に多くの弁護士がチームであたることも珍しくありません。弁護士の急増を受けて旭川でも3~4人の弁護士を抱える法律事務所が増えていますが、ベテランが新人を指導するのを除き、基本的にはそれぞれが独立して活動しており、「チームワーク」の機会はほとんどないようです。