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北海道経済 連載記事

2013年3月号

第36回 NHK受信料 時効は5年

NHKの番組を観ても観なくても徴収されるのが受信料。テレビを購入・設置した時点で契約の義務が発生するなど、ほかの公共料金とはかなり異なっているため、トラブルに発展することも少なくない。今回の「法律放談」は受信料をめぐって司法が示した新しい判断について。(聞き手=北海道経済編集部)

NHKの受信料をめぐっては、これまでにも裁判所から様々な判決が言い渡されています。昨年末には、滞納した受信料の時効をめぐって新たな判断が示されました。

私が担当した事件では、NHKが受信料の滞納分の支払いを求めて、Aさんを旭川簡易裁判所に訴えました。Aさんは過去にNHKと契約したことは認めたものの、途中で解約していると主張し、支払いを拒否しました。これに対してNHKは、定められた解約手続(テレビの取り外しが必要)が行われておらず、契約は、なおも有効であるとして、未払いの受信料、約7年分の支払いを求めたわけです。

本件では、解約方法が制限されていることの正当性も争点となったのですが、主要な争点となったのはNHK受信料に時効はあるのか否か、あるとすれば何年なのかということでした。

簡易裁判所での判決はNHKの全面的な勝訴でした。NHKは広告を禁止され、受信料で運営されている特殊な形態で、公共性があるので、視聴者との契約は私人間との契約とは異なり、民法・商法は適用されない、つまり受信料債権については時効消滅しないとの、従来からのNHKの見解に沿った判断を示したのです。

旭川地方裁判所で行われた控訴審では、過去5年間の滞納分に限って受信料を支払うよう求める判決が言い渡されました。時効については一審判決から一転して、受信料債権は、民法169条が定める「定期給付債権」(1年または1年未満の短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権)であり、5年で時効消滅するとの判断が示されました。この時期、NHK受信料に関する裁判は全国各地で行われていましたが、受信料債権も時効消滅すると地裁レベルで認められたのは、これが初のケースでした。

原告、被告の双方が上告して行われた札幌高等裁判所での上告審でも、旭川地裁の判断が維持されました。他の地域でのNHK受信料をめぐる裁判でも、時効期間は5年との判断が定着したようです。

もっとも「5年」という期間は、ほかの公共料金と比べれば長いと言えます。水道料金と電気料金については、民法173条の定めた短期消滅時効2年が適用されるとの判例があります。NHK以上に日常生活に不可欠な水道料金や電気料金でさえ2年で時効消滅するのですから、NHK受信料についての消滅時効期間「5年」は長すぎるように思えます。

NHK受信料は、テレビを購入・設置した時点で、実際に番組を観るか観ないにかかわらず、受信料の支払い義務が発生します。業者側が一方的に有利となる契約条項は消費者契約法によって厳しく規制されているのに、なぜNHKだけが特別扱いされるのかという疑問はあります。

受信料の消滅時効期間が5年と定められたことで、NHKは、今後、5年以内に提訴してくることになるでしょう。もっとも、民法については、近々、改正が予定されており、時効期間1年~3年の短期消滅時効の制度が廃止し、時効期間を一律化する動きがあるので、水道料金、電気料金、受信料の消滅時効期間についての一連の判例法理も近々変更されるかも知れません。