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北海道経済 連載記事

2013年2月号

第35回 止まらない弁護士増加

この数年で規模が急速に拡大した分野のひとつが「弁護士業界」。弁護士の人数は増えたのに事件は減り、経営環境は厳しさを増している。今回の「法律放談」は増え続ける新人弁護士について。(聞き手=北海道経済編集部)

このほど旭川弁護士会に7人の弁護士が新たに加わりました。そのうち6人は司法修習(65期)を終えたばかりの新人で、1人は別の地域の弁護士会からの登録替えです。会員数は合計69人。1割強の大幅な増加です。

私は54期の司法修習を終えて12年前に旭川弁護士会に登録しましたが、その年の新人の登録は私だけでした。51~53期は3年連続でゼロ。48~50期は1人ずつの登録がありましたが、その前は8年間にわたり「ゼロ」でした。当時は新人が加わらないほうが当たり前だったわけです(その間も、裁判官や検察官を退官してから旭川で弁護士になる人はいましたが。

旭川での弁護士登録の増加は、48期から司法修習の実務修習地に旭川が加わり、旭川にも司法修習生が配属されるようになったことが一因です。それまでは道内では札幌・函館に修習先が限られていて、司法修習生が旭川に足を運ぶ機会がほとんどありませんでした。59期からは1年に複数の人が旭川で登録する傾向が定着。60期からは法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度が導入されて弁護士になる人が大幅に増加し、旭川でも今日に至るまで弁護士数が急ピッチで増え続けています。

弁護士の増加の一方で、事件の数は刑事・民事ともに減少傾向にあるため、弁護士1人あたりの担当事件は大幅に減少しています。たとえば、私が2002年に受任した国選弁護は40件以上でしたが(当時は被告人国選のみ)、昨年は、被疑者国選を含めても8件でした。この数年は過払金関連の案件が急増しましたが、消滅時効にかかってしまったり、消費者金融会社が倒れてしまったりで、請求できる案件は、もうほとんどありません。

東京などの大都市圏では、修習を終えても法律事務所に所属することができず、やむを得ず個人の法律事務所を開設する「即独」や、事務所の費用を節約するため自宅で開業する「宅弁」が現れています。旭川の状況はそこまで深刻なものではなく、新人弁護士でも食べていくことはできますが、弁護士の絶対数が少なかったころのような収入を得るのは困難です。減少傾向の事件を増加傾向の弁護士で分け合うのですから、キャリアを重ねれば、収入がアップする見込みもありません。弁護士として開業できるのは若くても20代後半で、法科大学院は一般的に学費が高額です。収入だけを基準に選べば公務員になったほうが賢明ではないかと思います。もちろん、多くの弁護士は金銭以外の理由でこの仕事を選んでいるわけですが。

新人が続々と加わった結果、旭川でも2~3人の弁護士が所属している法律事務所が増えました。純粋な経営上の判断から言えば、特殊な事情がない限り新人を迎えたいという法律事務所は少なく、せっかく弁護士になったのに、受け皿がないという事態だけは避けたいという弁護士会ひいては社会全体の要請に応える意味合いの方が強いのではないかと思います。

現行の法曹養成制度が続く限り、弁護士の数はこれからも増えていきます。供給過剰が問題になっているほかの「士業」のなかには、団塊世代が卒業すれば需給バランスが改善すると予測されているものもありますが、弁護士はベテランの数が少ないので、それも期待できません。個々の弁護士が経営環境の大幅な変化にどう対応するのかが、いま問われています。