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北海道経済 連載記事

2012年12月号

第33回 弁護士CMと経営環境

昔なら考えられなかった弁護士のテレビCM。その背景には、弁護士業界の競争激化がある。今回の辛口法律放談は広告と経営環境の関係について。(聞き手=北海道経済編集部)

テレビ、新聞などで法律事務所の広告を頻繁に見かけます。以前なら考えられなかった状況です。

昔は、弁護士業の職務は自由競争になじまないとの考えから、広告活動が禁止されていました。日本弁護士連合会が会則を改正して弁護士の広告を一部解禁したのは1987年、原則自由化したのは2000年のことです。

広告に対する考え方の変化を端的に示しているのが電話帳です。タウンページには、昔なら事務所名と電話番号、住所だけが1行に掲載されていましたが、現在では大きな広告が場所を奪い合うように並んでいます。

このような積極的な広告活動は、弁護士の「経営環境」の変化を反映したものです。弁護士の絶対数が少なかったころは広告など打たなくても十分な仕事と収入が確保できました。旭川地裁管内ではかつて、1人の弁護士が年間100件の国選弁護を担当したという「逸話」も残っています。1件あたりの収入は12~13万円でしたから、国選の仕事だけでも(多忙とはいえ)金銭的な余裕はありました。

その後、司法改革の影響もあって徐々に弁護士の数が増えましたが、2つの「特需」のおかげで弁護士へのニーズもまた拡大しました。まず02年ごろに急増した個人破産です。旭川地裁の管内でも、年間に千数百人が破産する事態が約5年間にわたって続き、それだけ弁護士の仕事も増えました。

個人破産が鎮静化しはじめたころに始まったのが過払金返還請求です。06年の最高裁判決をきっかけに、利息制限法の定める上限を越えた利率での融資を合法化していた「みなし弁済」の成立条件が極めて厳しくなり、すでに借り手が消費者金融会社に返済した利息のうち、法律の制限を上回る分の返還を請求できる道が開かれました。その後、多くの弁護士が過払金請求の業務を集中的に手がけるようになり、「すでに払った利息が戻ってきます」などと呼びかける広告が増えました。

一般的な民事訴訟と比較して、個人破産や過払金請求の手続は、弁護士の精神的な負担が軽いというのが私の印象です。個人破産は、言わば裁判所が相手方であり、最終的には99%破産免責が認められます。過払金請求は、既に方法が確立しており、敗訴のリスクとうものがほとんどありません。いずれも、弁護士の主張に強硬に異議を唱える相手方はいません。これに対し、一般的な民事訴訟では、相手方にも弁護士が就いて、互いに徹底的にやり合うので精神的なストレスは個人破産や過払金請求の比ではありません。これも、個人破産や過払金請求に多くの弁護士が流れた理由ではないかと思います。

しかし、消費者金融会社が倒産したり、過払金の消滅時効の関係で、過払金関連の仕事は激減しています。個人破産もピーク時の半分ほどに減少しています。その一方で弁護士業界には大量の新人が流入しています。今後は「成長」の予想される分野、例えば後見や相続、一件あたりの訴額が大きい分野、例えば交通事故の示談などで、積極的な広告活動を展開する弁護士が現れそうです。

昨年、東京に事務所を置き、全国的にCMを放送している法律事務所が、まったくの異業種である回転寿司業界に参入したことが法曹関係者の注目を集めました。若い女性弁護士の登場するCMは相変わらず頻繁に放送しているようですが、もう弁護士業では儲からないと判断したのかもしれません。