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北海道経済 連載記事

2012年11月号

第32回 離婚慰謝料の増加傾向

刑事裁判の量刑と同様、離婚裁判の慰謝料にも、「この条件なら慰謝料はいくらになる」といった「相場」が存在する。今回はこの「相場」の新しい傾向に注目する。(聞き手=北海道経済編集部)

離婚の慰謝料については、以前にも取り上げました。そのときは、「婚姻期間1年あたり10万円」が相場であると書きました。例えば、結婚してから10年目の夫婦が夫の浮気のために離婚することになれば、夫から妻に、または夫の浮気相手から妻に100万円と1割の弁護士費用、合計110万円を支払う旨の和解が試みられ、判決でもその位の金額が認容されるのが一般的でした(養育費は別)。夫が妻に暴力を加えていた、夫と浮気相手の女性の間に子ができた等の状況では夫や浮気相手の行為はより悪質とみなされ、慰謝料も加算されます。(ここでは話を単純化するために夫の浮気を想定しますが、当然、逆のケースもあります。

10年目の夫婦が離婚して、弁護士費用を差し引いた慰謝料が100万円と聞けば、何とも安く感じるかもしれませんが、これが道内の実情です。芸能ニュースやテレビの法律番組を観たあと、数百万円、数千万円の慰謝料がもらえると思って離婚の相談に来る方もいますが、現実はかなり厳しいものがあります。

もっとも、最近は、道内においても離婚裁判で認容された慰謝料、ないし和解金額は、上昇する傾向にあるように思います。妻が夫の浮気相手を訴えたある事例では、結婚から3年未満、家庭内暴力もありませんでしたが、以前の「1年10万円」の相場からは大きく外れる150万円の慰謝料が認容されました。また、妻が夫の浮気を理由に離婚した場合に比べ、離婚しなかった場合は、慰謝料の金額が低額となる傾向がありますが、近時は、離婚しなかった場合でも150万円程度の慰謝料が認容されることがあります。従って、それなりの年数の婚姻期間があり、離婚が成立した場合の慰謝料は、さらに高額となるものと思われます。判決に至った事例だけでなく、裁判所から和解が提案された案件や、訴外の交渉でも、慰謝料が高くなる傾向にあります。これら近時の傾向からすると、慰謝料については、事実上、150万円程度の下限が設定されつつあるように感じます。

本州の大都市圏では、従来から道内よりも高い慰謝料が支払われていましたが、ここにきて、道内と道外の格差が縮小しているとも言えます。

このような傾向の背景には、離婚件数の増加があります。以前なら長い間我慢してから離婚に踏み切ったものが、近年は1~2年で決断してしまう人も少なくありません。離婚の裁判も増えており、裁判所は慰謝料の引き上げで早期に和解を達成することを目指しているのかもしれません(裁判費用や弁護士費用の支払いを考えると、慰謝料を引き上げないと、和解する気持ちになれない。

慰謝料が以前よりも増えたとはいえ、それが妻の離婚後の生活を支えていける額なのか、夫に支払い能力があるのかはまた別の問題で、離婚せずに生活費を負担してもらう方が得策であることもあります。

もう一つの新しい傾向としては、弁護士の増加を受けて、この地域でも多くの弁護士が離婚裁判に昔よりも積極的に関わるようになったことが挙げられます。夫と妻だけではなく、最近では浮気相手にも弁護士が付くようになりました。原告につく弁護士は、より多額の慰謝料の獲得を目指しているため、訴額を多額に設定し、和解金額のハードルを高く設定する傾向にあり、そのため認容される慰謝料ないし和解金額も高額化しているのだと思います。