しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第27回 高齢化社会に対応した「成年後見」

北海道経済 連載記事

2012年6月号

第27回 高齢化社会に対応した「成年後見」

日本人の平均寿命は女性が86歳、男性が79歳。本来長寿は喜ばしいことだが、認知症で判断能力が衰えたお年寄りをめぐってさまざまなトラブルが発生している。今回の「辛口法律放談」は、そんな社会状況に対応して整備された「成年後見制度」について。(聞き手=北海道経済編集部)

自分が死んだあと、遺産をどのように分割するのかを生前に指定しておくのが遺言です。遺言の効力が生じるのはその人が亡くなってからですが、実際には認知症などで判断能力が衰えた人の財産をどう分けるかをめぐって生前から親族間で対立が起きることが珍しくありません。特定の親族が財産を使い込んだりすると対立は一層激化します。このほか、認知症のお年寄りの財産を狙った悪徳商法も社会問題となっています。一方で、知的障害者や精神障害者も十分な判断能力を備えていないためにさまざまな生活上の困難に直面しています。このような状況に対応して、判断能力が衰えた人に代わって親族や専門家が法律行為や身上介護を行うために整備されたしくみが「成年後見制度」です。

成年後見制度は、裁判所が後見人等を選任する法定後見制度と、後見される人(被後見人)が自ら後見人を選任する任意後見制度の二つに大別されます。 まず、法定後見制度ですが、親族や検察官、市町村の首長などからの申し立てを受けた裁判所が、必要に応じて医師による鑑定を行った上で、親族、司法書士、弁護士等から後見人等を選任します。

選任された後見人は、被後見人に代わって契約などの法律行為を行ったり、被後見人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、被後見人を保護・支援します。

なお、被後見人の判断能力の程度に応じて、法定後見は▽判断能力が不十分な人のための「補助」▽判断能力が著しく不十分な人のための「保佐」▽判断能力が欠けているのが通常の状態である人のための「後見」、の3種類に分類されます。保護・支援の具体的な内容は3段階のうちどれに該当するのかで変わってきます。

後見人等の報酬は、被後見人の財産から拠出されますが、通常は月に1万数千円程度です。後見人業務として訴訟追行等の特別な業務を行った場合には、特別報酬が発生することもあります。

次に、被後見人が自身の意思で後見人を選任する任意後見制度について説明します。まだ、判断能力が衰えていない段階で弁護士等と契約を結び、認知症などで判断能力が衰え、適切に財産を管理することができなくなり、裁判所による任意後見監督人の選任がなされた段階で、任意後見人が財産管理を行うようになります。また、任意後見契約は公証人役場で公正証書にしてもらうことが必要ですが、多くの場合、判断能力が衰える前からの財産管理の委任契約とセットで公正証書にします。判断能力が衰える前も任意後見人予定者が、財産を管理することができることから、これをセットにすることが多いようです。任意後見人の報酬は、合意により定められますが、相場としては、法定後見人の報酬とほぼ同じでしょう。

「後見人」といえば、以前は親に代わって未成年者の財産を管理する人という印象がありました。成年後見制度は、高齢化社会の要請に応えるかたちで整えられた仕組みです。法的な専門知識を求められるケースでは、弁護士が後見人等に選任されることが多く、弁護士業務に占める成年後見の比率も徐々に高まっているように思います。(談)