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北海道経済 連載記事

2012年5月号

第26回 地籍調査と「取得時効」

登記簿上の土地の境界線と、実際の土地の境界線のズレを解消するために全国の自治体が実施している地籍調査。調査の結果境界線が変更され、土地が狭くなってしまうことがある。今回の法律放談は地籍調査で境界線が変更され、不利益を被った場合の対応について。(聞き手=北海道経済編集部)

「地籍調査の結果、隣家との境界線が変更され、うちの敷地が狭くなってしまった。納得がいかない」といった相談を受けることがあります。長年、自分のものだと思い、隣人もそれに納得していた土地が突然隣人のものとされ、しかもその土地について固定資産税を払っていた事実も考慮されないとすれば、納得できないのも無理ありません。

地籍調査の結果に同意しないという方法も考えられますが、その場合、土地所有者間で争いがある境界線(筆界)は確定せず、そのような土地は「筆界未定」状態となります。しかし売買や相続のためには、筆界を確定させなければなりません。また、自治体によって行われる地籍調査の費用は自治体が負担するのに対し、再測量の費用は土地所有者が負担することになります。さらに、再測量を行ったところで、依頼者にとってより有利な結果が出るとは限りません(むしろ出ないのが通常です)。このため、地籍調査に同意しないで再測量を行うことは、あまり得策とは言えません。

状況にもよりますが、このような場合、隣地所有者を相手に裁判を起こして「取得時効」を主張することにより、地籍調査でずれてしまった筆界を元の筆界に戻すことができる可能性があります。

「取得時効」とは、他人の所有物でも占有してから一定の時間が経過すれば自分の所有物になるという民法で定められた制度で、土地の場合、善意(他人の土地を占有していたことを知らない場合)かつ無過失なら10年、悪意(他人の土地を占有していたことを知っていた場合)なら20年が経過した時点で取得時効が成立します。

たとえばAさんが庭に15年前、物置を建てたとしましょう。地籍調査の結果、筆界が変更され、物置の一部が隣家のBさんの土地にはみ出してしまい、Bさんから物置の収去を求められたとします。Aさんは自分のものだと思った土地に物置を建て(善意)、10年以上にわたりその土地を占有しているのですから、筆界変更によりBさんの土地とされてしまった部分について取得時効を主張することができます。

ただし、取得時効を主張する前提として、いったんは自治体が行った地籍調査の結果に同意して、筆界を確定させなければなりません(ただし、同意にも期間制限があり、期間経過後に筆界を確定させるには費用をかけて再測量する必要があります。)。筆界未定のままでは、具体的に土地のどの部分について取得時効が成立するのか特定できないからです。

技術や機器が未発達だったころに定められた筆界は、最新技術を使った地籍調査で、多かれ少なかれ移動するものです。地価の高い大都市圏では、数センチの移動のために地主の権益が大きく損なわれることもあります。特に、大型の土地を分割する場合、分割前と同じ地番が残る土地(親地)の面積を調整することでそれまでのズレを解消することになるため、親地の所有者は注意が必要です。

取得時効を認めさせるには裁判を起こす必要があり、相応の費用や手間がかかります。専門家の意見を聞いて、失った土地の価値を勘案しつつ、筆界を確定させるか、取得時効を主張するか等の対応策を検討するべきでしょう。(談)