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北海道経済 連載記事

2012年4月号

第25回 裁判員制度で裁判はどう変わったか?

実施から約3年が経過しようとしている裁判員制度。今回の法律放談は、その導入と、これによる負担の増大について。(聞き手=北海道経済編集部)

裁判員制度では3人の裁判官とともに、一般市民から選ばれる6人の裁判員が評議の上、判決を下します。裁判員は忙しい日々のなかから、貴重な時間を割いて裁判所に出頭し、審理を行うのですから、長期間の審理は、なるべく避けたいところです。

裁判員制度が適用されるのは重大な犯罪の刑事裁判です。旭川地裁では、短ければ2日間、長くても5日間程度で、審理及び評議の上、判決が言い渡されます。従来と同じ手法では、これほど迅速な審理・判決は、ほぼ不可能です。このため、裁判員裁判においては、公判開始前に裁判官、弁護人、検察官が数回集まって「公判前整理手続」が行われ、証拠や争点の絞りこみを行います。

この手続の中で、迅速な審理を実現するために特徴的なものが、検察官による調書の圧縮です。公判で証拠採用した調書を読み上げるなどして取り調べると時間がかかるので、重要度が低い部分を削ってエッセンスだけにするわけです。削りすぎると、その部分を証人尋問や被告人質問で明らかにすることになり、公判での負担が大きくなるので、検察官には気を遣う作業であるようです。他方、弁護人は圧縮前、圧縮後の調書を比較して、内容が歪められていないかチェックしなければならないので、やはり気を遣います。裁判員の負担を軽減するため、検察官や弁護人の負担が大きくなっています。

公判のための準備も変わりました。専門知識の乏しい裁判員にもわかりやすいように、検察側、弁護側双方とも、わかりやすい言葉を選んで使ったり、パソコンによるプレゼンテーションを準備したりするようになっています。公判で意見を述べる際も、裁判員に強く印象付けるためにパフォーマンスを駆使する人が増えており(日弁連での研修でも、これが推奨されています)、そのため、学芸会さながらの練習をしています。

では、裁判所制度の導入は裁判の内容にどのような影響を与えたのでしょうか。複数の裁判員裁判に弁護人として参加した私の経験から言えば、裁判員の負担軽減のため迅速な審理を、という裁判官の意識が働いているのか、証拠や証人については必要最小限度しか採用されなくなった感があります。例えば、弁護人がセカンドオピニオンを求めて別の証人を申請しても採用されない、採用されても尋問時間が十分に認められない、といった具合です。

また、弁護人や検察官がわかりやすいプレゼンテーションを心がけ、裁判官と裁判員の間で行われる評議の際に丁寧な補足説明が行われていることになっているとはいえ、一般市民から選ばれた裁判員に、難しい法律論がどこまで理解できるのか疑問というのも正直なところです。これまでの裁判員裁判で従前の量刑相場から大きく外れた判決が下された例が、ほぼないことを考えあわせれば、結局、プロの裁判官が評議をリードしているのが実情なのかもしれません。

裁判員制度は、裁判員はもとより、裁判官、弁護人、検察官の負担をも増大させる制度ですが、結局、その負担は納税者に転嫁されます。裁判員に選ばれて喜ぶ人もほとんどいないでしょう。市民の一般常識を司法に反映することを狙って導入された裁判員制度ですが、裁判結果に従前と大きな差がない以上、裁判員・法曹三者・納税者の負担増大に見合うだけの存在意義は、ないように思います。私としては、裁判員制度は、国費を投入する積極的な意義がないので、廃止すべき制度だと思います。(談)