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北海道経済 連載記事

2012年2月号

第23回 法曹の「卵」が大量に浪人

司法試験に合格し、司法修習も修了したのに働き口が見つからない人が急増している。人材供給の拡大にニーズが追いつかないためだ。今回の法律放談は、法曹就職戦線における需給ギャップについて。(聞き手=北海道経済編集部)

司法試験に合格した人が受ける司法修習を修了した人は昨年(第64期)、新旧司法試験を合わせて2152人でした。彼らは裁判官、検事、弁護士(いわゆる法曹三者)のうちいずれかになることを夢見て長年努力してきたわけですが、司法修習を修了したにもかかわらず、法曹三者になれなかった人もいます。弁護士になったのは1423人。裁判官(判事補)、検事に任官する人の数はまだ明らかになっていませんが、仮に前年と同じだとすれば合計172人。修習修了者との差、465人もの人が「就職浪人」することになります。一般の高卒者・大卒者でも就職戦線の状況が厳しいのは同じですが、多額の学費を払い、長い時間をかけて司法試験に合格、司法修習をようやく終了したのに働き口がなかなか見つからないという現実は、極めてシビアなものでしょう。

司法修習修了後の「就職浪人」の数は、2005年までは1ケタ、多くても十数人で推移していましたが、翌年から増加しはじめ、07年には新旧司法試験合わせて100人を突破、10年には250人を超え、昨年はさらに急増したわけです。

法曹の養成制度が変わっても、裁判官と検察官の任官数は増えていません(これは法曹の需要が増えていないことの表れと言えます。)。弁護士の採用数は10年前と比べて倍増していますが、法律事務所には、そろそろ新しい人材を吸収する余裕がなくなってきています。今後も2000人程度の人が司法試験に毎年合格する状態が続けば、就職浪人はさらに増加する可能性があります。

このような法曹の「就職戦線」の状況は、とくに若手弁護士の収入減少を招いています。09年に就職した第62期司法修習修了者を対象に日弁連が行ったアンケート調査では、10年前にはほとんどいなかった年収400万円未満の人が32・2%を占めました。

影響は社会にも及んでいます。弁護士の数が増え、1人あたりの手持ちの事件数が減ったため、ひとつの事件で多額の報酬を得るべく、常識はずれの高額な賠償を求める言いがかりのような訴訟が散見されるようになっています。弁護士が受け取る報酬のうち着手金は訴額の一定比率とされることが多いので、裁判で主張が認められる可能性が皆無だとしても、高額な賠償を求める訴えを起こすだけで、弁護士は多額の収入を得ることができます。依頼人本人が高額賠償を求めることもありますが、まともな弁護士なら常識はずれの要求は通らないとアドバイスするでしょう。

問題解決のためには、司法試験の合格者を減らすしかありません。札幌弁護士会は、合格者を年間1000人まで段階的に減らすよう求める決議を昨年11月に採択しており、日弁連も本年3月に合格者減員を提言する見通しです。減員数については、年間500人~1000人程度と言われていますが、日弁連内部でも意見が分かれていて、激烈な議論がなされています。もっとも、司法試験の合格者数を決める権限は政府にあり、法科大学院の権益にも大きく影響するため決議や提言にどれだけの意味があるか疑問ですが、政府は遅かれ早かれ法曹の需給ギャップという現状を是正する必要があるでしょう。そうしないと数年後には、司法修習修了者の約半数である1000人が就職浪人するという事態を招くと思います。(談)